小説

『姫とHIME』NOBUOTTO(『かぐや姫』)

*地球*
 帝と出会ってから日々かぐや姫の表情が豊かになっていくのをみて翁と嫗は喜んでいました。しかし、最近は悲しそうにため息ばかりをついています。翁と媼はその理由をかぐや姫に問いました。かぐや姫は真実を二人に話しました。話しを聞いた翁と嫗はかぐや姫を守るために国中から兵士を集めました。この話は帝にも伝わりました。
 帝がかぐや姫に会いにいくと、かぐや姫は惑星に戻ったら自分はどうなるかわからない。翁、嫗そして帝と別れたくないと言いました。
「あなた自身の感情ですね」帝は静かに言いました。
 そして、八月十五日の満月の夜がやってきました。十五夜の月の中から小さな塊が現れ屋敷に近づいてきます。兵士達はその塊に一斉に矢を放ちました。あまりに多くの矢であったため、月明かりは矢の壁で遮られて辺り一帯真っ暗になりました。

*惑星*
 ジェシーはHIME回収のために地球に向かっていた。
「博士、HIMEの屋敷に多くの地球人がおり、彼らの武器で本船へ攻撃をしてきます」
 監視モニターからこの様子をみていた博士が言った。
「モニターの解析結果では2000以上の地球人です。武器は無力ですが念のため無力化光線で対処してください」
「了解しました」
 少し間をおいてジェシーの独り言のような声が聞こえてきた。
「しかし、HIME1体のために、なぜこれほどの地球人が集まるのか。私には理解できません」
 研究室からの返事はなかった。

*地球*
 小さい塊から発せられた光は屋敷全体を包み込みました。翁も嫗も兵士達も、その光を浴びると身体中の力が抜け、立っていることさえできなくなりその場に座り込みました。そして屋敷に近付いてくる塊を呆然とみていました。月が見えなくなるほど大きくなった塊の中から出た白い光がかぐや姫を包み込みました。その時かぐや姫の声がしました。
「お父様、お母様、短い間でしたが、本当に本当にありがとうございました」
 その時、塊に向かって大きな矢が飛んできました。他の兵士の何倍もある大きな矢です。帝が塊に向けて矢を放っていたのです。矢は塊にあたっても弾かれるだけでしたが、帝はなんども矢を放ち続けました。がむしゃらに矢を放ち続ける帝の顔の頭巾がまくれ上がりました。そこには、燃えるように怒る帝の目がありました。そして帝の顔には沢山のひびが入っていました。まるで壊れた陶器のようでした。

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