小説

『姫とHIME』NOBUOTTO(『かぐや姫』)

*惑星*
 ジェシーは監視モニターでこの様子をみていた。
「博士、地球人の行動の意味が私には理解できません」
 博士は天井をみあげてから、ジェシーに微笑んで言った。
「そうですか。これまでの感情共鳴からか私は少しは理解できました。いや、勿論原始感情は私も持っていませんが。それにしても、ここ数日で感情抽出も一気に進んできましたね」
 感情データベースを見るとHIMEの許容量の半分にまで達していた。

*地球*
 この三日三晩のお祭りの話は帝の耳にも入りました。長らくの間豪族同士の争いが絶えなかったこの地に当然現れ、その類まれな頭脳と強靭な体で豪族達を倒し帝まで上りつめたそうです。帝が治めるようになってから平和が訪れ商売も繁盛しました。国中の誰もが帝を慕い尊敬していました。帝はある月夜の晩に何人もの家来がかつぐ神輿で屋敷にやってきました。家来達も屈強の若者でしたが、神輿から降り立った帝はそれは大きく、彼らが子供に見えるほどでした。その体に合う衣装もないのでしょうか、一枚の紫の布を頭だけすっぽり出して服代わりに羽織っていました。顔は紫の頭巾で覆われていました。今まで誰も帝の顔を見たものはいませんでした。
 帝もかぐや姫を一目みただけで心が動いたのが、それから度々かぐや姫の屋敷にやってきました。帝はいつも月の輝く夜に屋敷を訪れました。かぐや姫とともに月を見て、かぐや姫の話を帝は聞くだけでした。帝と会うたびに包みこまれるような暖かな感情をかぐや姫は共感していました。と同時に、何か静かな悲しみをいつも共感していました。不思議なことにかぐや姫は帝にはなんでも話すことができました。かぐや姫は自分は地球の者でないこと、地球人の持つ感情というものを自分は持てないことなど全てを話しました。その話しを聞いても帝は驚く様子もなく、いつも黙ってかぐや姫の話を聞いていました。こうして度々会ううちに、かぐや姫は帝と一緒にいたいと思うようになりました。これは共感でなく、自分の中から沸き上がってきたものです。これが感情というものなのかどうか、かぐや姫にはわかりませんでした。ただ、いつまでもこうした日々が続くことを願うようになっていました。

*惑星*
「博士。HIMEの感情データベースの蓄積量がMAXに近付いてきました」
 赤、青、茶色など原始感情の種類で蓄積量を表している画面には空白がなくなっていた。
「充分な量です。ジェシーさん、それではHIMEを回収しましょう。HIMEへも帰還日時を伝えて下さい」

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