小説

『スキル』わろし(『史記 孟嘗君列伝』)

特技スキルですか」
 馮驩は考え込んだが、そうする間もモグモグと咀嚼するのをやめなかった。そのまましばらく考えて(口のものを嚥下して)から、
「左様。私も貧しい時分には、それで股肱をしのぎましたナ」
「ほ、ほう」
 喉元まで出たツッコミを『孟嘗君』はかろうじて呑み込んだ。
「して、その特技とは」
「説明するより、お見せしよう」
 と、馮驩は顔を引き締めた。膝に手をおき動かないのは、気が満ちるのを待っているのだろうか。
 一同は固唾を呑んで見守った。やがて馮驩が静かに口を開く。
「犬」
 バウ!ワウ!
「猫」
 ミャーウ。ミャーウ。
「牛」
 ムウウウウ。
「家鴨」
 クアック。クアック。
 一同はあんぐり口を開いたまま。しかし当の本人は、いよいよ調子が出てきたとみえて、
「羊」
 ネエエエ。ネエエエエ。
「馬」
 ネェーイ!
「豚」
 オインク、オインク。
「猿」
 ヤック、ヤック。
「蛙」
 リビリビ、リビリビリビ。
「鶏」
「も、も、もう結構で」

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