小説

『柿の世界征服』相田想(『猿蟹合戦』)

 「あー柿の種って喋れるんだね。ほーん」
 「まあ。喋れるのは柿の種の中でも私くらいでしょうね。特別なのです。選ばれしものなのです」
 「そいつぁ凄いやね。でも何故?何故そのように選ばれしものが道端に落ちているの?俺としては納得いかない所ではあるね」
 「そ、それは…試練を与えられているのです」
 「試練」
 「そうです。選ばれたものには試練が付き物なのですよ。知らないんですか?」
 柿の種はまるで全ての存在が知り尽くしているのに、どうして貴方は知らないの?バカなの?猿なの?あ、猿だったわね。おほほほ。みたいなニュアンスで言った為、猿は「勿論知っている」と返した。
 「そう。それでね、私を何処か景色の良い所に埋めて頂きたいのですよ」
 「それが試練」
 「そうです。これが私に与えられた試練なのです」
  はははははは。猿公が。容易いわね。早く私を景色の良い所へ埋めなさいよ。そして少量の水でも呉れるがいいわ。そうしたらお前、私は巨大な柿の木と化して実を呉れてやるんだから。そうして一生私の下僕と化せばいい。私はそこから良い景色を眺めつつ世界を征服してみせる。
 そのように柿の種は思いつつ、猿を使役しようとしていた。
 猿は言った。
 「あのさ、それってお前の試練なんだろう?なのに、なんで俺が山までお前を運ばなければならんのよ。お前にはお前の事情があるかも知れんが俺にも俺の事情がある。俺は腹が減っているのだ。だから今からお前を食べる。よろしく」
 「いやいやいやいやいやいやややや」
 「何がいやいやいやいやいやいややややなのよ」
 「いや、その、それは確かに貴方の言う通りなのですけれど。だけど、その、私は直ぐに柿の木になり実らせる事が出来ますよ。だから貴方のお腹も心も私は満たして差し上げますよ」
 「直ぐに実らせるぅ?そんな事あるかぁ?そりゃあお前、喋れるし特別な柿の種だと思うけどよぉ。いっやぁでもそんな事は無理だと思うね」
 「いやいや、それが私にはできるのですよ、ホント」
 「どうかなぁ」

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