小説

『Grimm and Charles』ナカタシュウヘイ(『不思議の国のアリス 赤ずきんちゃん』)

 2.

 一方その頃、あなたは森の中にいた。まだどこが入口でどこが出口かわかる世界の森にいた。でもその配置転換点をあなたは見つけた。気になり様子を見に行くと知っているような知らないようなものを見つけました。ウサギの毛先が何本か、ウサギの手指のその爪とそれは大きな懐中時計とが、森の切り株近くにありました。
 あなたは、アリスはもちろん驚きました。でも同時にこれはきっと赤ずきんのせいだろうと同時に思いました。隣で確かにこんなことを書いていたのだから、きっと赤ずきん、わたしって人のせいなのです。
 でもあなたはそれも悪くないと思います。確かにウサギさんこんな無残にもなったけど、近くに赤ずきんであるあの子がいるとわかったのだから、実はちょっぴり安心したのです。人の死んだ姿ならきっと怖くてそこで立ちすくんでいたでしょうし、残酷な形でここに残されたなら、それもきっと恐ろしかったことでしょう。あなたは懐中時計を手にしまい、赤ずきんであるあの子の居場所を探そうとしました。先生がちゃんと協力して物語を完成させなさいねと言っていた通りに、わたしのことを探そうとしました。
 向かおうとした先とは違うところから、誰かの足音が聞こえてきました。誰かしらとあなたは思い、そちらへ目線を向けました。でも安心していいようです。狩人です。鉄砲を肩に抱えてやってきました。木をハサミで削りながら、こちらを見て微笑みます。それから笛を作り、ひと吹きしてみせ、どうしたのかとアリスに訪ねました。
 「ちょっと道に迷ってしまったの。でも大丈夫。お友達はちゃんと見つけられるから」少しだけ不安な気持ちがありましたが、この人を心配させてはいけないと思い、アリスはそう返事をしました。この人もこの物語に関係あったかどうか考えてもみましたが、アリスのお話の中にはいないので、ここは慎重に話すべきだともあなたは思っていました。
 「そうかい。お友達とはぐれてしまったのか。それはそれは心配だ。私としては心配だ。というのはね、この辺りで人を食べる狼がうろついているという噂を聞きつけて、ここまで私はやってきたんだ。村人によれば狼は一匹だけだと言うものだ。しかしこんなところで女の子が一人歩いているのはやっぱり危険だとも思ってね。良ければ、途中まで、お友達のところか人の声の届く村まで送ってあげよう」狩人がこのように親切な申し出を言ってくれました。アリスは一つ案じてみて、狩人の申し出を受けることにしました。しかしよく見ると狩人はウサギの残骸には気づいてはいないみたいです。言うべきかどうか考えあぐねているともう狩人は、先へ進み、さぁこちらへどうぞお嬢さんと手で招く身振りを見せました。アリスは結局このことを言う事なく、狩人の後ろへついていくことにしました。何だか置いていかれるような気もしていたので、その気持ちの方が優ってしまったのかもしれません。
 でもとにかく、道案内人がいるというのは悪くはありません。これで赤ずきんに会いに行けるはずなのですから。
 狩人の行くままついていくとそこには一軒の家がありました。木を穀物や泥、藁などと練り合わせて作った平屋に狩人とアリスは辿り着いたのです。懸命な読者はお気づきかもしれませんが、そう、ここは赤ずきんのお祖母さんの家なのです。狩人はここがお祖母さんの家だとは知っているようです。しかしここでひとまずお祖母さんにも話を聞いてみようと言いました。

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