小説

『新説 不思議のお茶会殺人事件』湯(『不思議の国のアリス』)

「デタラメとはなんだ!」
 けれど一歩も引く気はないと、自分の推理にケチつけられて、八田は腹から声を出す。嫌味で犯人追い詰めるのは名探偵の手練手管よ――この男だって例には漏れず、嫌味ったらしい口が達者。『前言撤回』なんて言葉は、彼の辞書には載ってない。スポッと被った帽子の下で、いやらしい目がギラリと光る。
「お前には動機があるからな」
「動機ってなによ?」
「お茶会に参加した白時計兎を悔しそうに見ていただろ? 内心やっかんでいたんじゃないのか、んん?」
「そ……そんなのあんたの勝手な想像でしょ!? 別に、こんなヘンテコなお茶会、誰が頼まれたって参加してやるもんですか!」
 ぷいっとそっぽを向く少女。八田の嫌味と指摘を受けて「そうだけど」って言いかけた。けれどもそれでは認めてしまうと、クッキー咥えて口つぐむ。(危なかったわ)なんて、顔は真っ赤で頬も膨らむ、そんな姿がいじらしい。気を取り直してアリスの指摘。指を伸ばして八田を指名。
「なによ変な帽子かぶって。さっきの推理だってデタラメじゃない。ははーん。さてはもしかして。あなたが犯人だったりして?」
「そんなはずないだろ! 私はこのパーティーの主催なんだぞ! いわば被害者だ!」
 怒鳴られたって引き下がらない。そもそも相手はイカレた帽子屋、イカレた理論に意味は無い。放っておけば、何を言うかも分からない。名推理とは名ばかりの、デタラメ推理に対抗しては、アリスもついに立ち上がる。コイツにできて自分にできないわけないわ。なんて、八田よろしく腕を組み、偉そな態度を真似してみては、カップを片手に推論語る。汚名返上、名誉挽回、はらりと払った髪の毛が、サラリとなびく美少女探偵。グビッと紅茶を飲み干して、一言目には決まり文句を高らかに。
「ズバッと解決よ!」
 さてアリス曰く、八田は皿を紅茶にひたして、バリバリかじっていたのだそうな。とんでもないことするもんだわと、目を離せずに見ていたら、知らず知らずに事件勃発。立っているのは自分と彼だけ。机に転がる二兎と一鼠。こんな事なら大人しく、木陰に居ればよかったと……そんな気持ちも今更である。過ぎた時間は、時計と違って巻き戻せない。
 ――さて、それは置いといて。
 紅茶を飲んだ被害者は、一人残らず死んだというのに、帽子屋だけはぴんぴんしてる。となれば推理は簡単よ。と、見えてくるのは一つの真実。

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