小説

『新説 不思議のお茶会殺人事件』湯(『不思議の国のアリス』)

 気を取り直して第二の被害者、八田に負けない小さな身体、ねずみ色したツンツン頭。眠そなまなこの少年だった。寝ぼすけの名をほしいままに、眠り鼠の山子灰次やまねかいじは宇佐美の隣でテーブルに伏す。それが普段の彼の姿。なにも変わらぬ彼だったのだが、ではなぜ彼は死んだのか?
 そんな事より結果が大事。些細な過程に目を伏せて、死因はやはり例のアレ。手元に置かれた毒入り紅茶。これが凶器と八田は言った。
 さらに八田の推理は続く。鼠のくせして猫舌の彼、カップの模様をしげしげ眺め、茶が冷めるのを待つ癖がある。おまけに今日は、渦巻き模様のカップであるから、これにはトンボも目を回し、あっという間に夢の中。トンボじゃなくて山子だと、言われたところで結果は同じ。彼はすっかり目を回し、机に伏して眠ってしまう。眠りこくった挙句の果てに、香りと一緒に漂ってきた、毒気を吸い込みああ哀れ。眠りネズミは永遠の、眠りについてしまったと……。ほろり、涙を拭っているが、どうにもこうにも嘘臭かった。デタラメ推理は宴もたけなわ。八田に噛み付く窮鼠はおらず、猫は黙って毛づくろい。
「コホン。ここまでで質問は無いな?」
 八田の態度は教師さながら、自信満々に胸を張る。返ってきたのは沈黙と、冷たい視線とため息だった。
「いいのか? 本当に質問は無いのか?」
 しつこい男、八田狂介。彼の言葉に元気良く「ハイ!」と手を挙げ返答する子はおりません。なにせこの場は殺人現場。転がる死体が教材代わり――なんて馬鹿げた話はありません。死体も生者も一緒になって、白い目向けて八田に抗議。
「で、では次に行こうか」
 旗色悪しと帽子を引き下げ、彼はコホンと咳払い。次の被害者指差して、さあさ皆さんご覧ください!
 ……殺人事件はショーではないと、何度言っても教えても、イカレた頭にゃ入らない。気持ちを切り替え事件を追うと、そこにあるのはふんわりふわふわ、耳も喉も白い毛の、小さい体の兎が一羽。
「やっぱりこの子はふわふわね」
 ボリュームがあるその首まわり、ひしっと抱きしめ引き寄せて、さわり心地がいい、あたたかい。少女は至福に目を閉じるけれど、死体に頬ずりするなんて……はしたないなんてレベルじゃない。可愛い顔した愚か者、夢見心地のキャロルイス=アリス。彼女の瞳が映すのは、死体ではなくぬいぐるみ。まだあたたかい……と、悠長な事を言っている間もなく、その脳天をピシャリと打った、大きな手。革手袋の八田狂介、ふんすと鼻息荒くして、憤るのも無理はない。彼女の態度は不謹慎――という理由であったのならば、彼の注意も認められよう。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10