小説

『桃産』大前粟生(『桃太郎』)

 切ってみると、桃のなかには果肉と種以外なにも入っていなかった。
 助産師さんがひときれずつ配っていく。
「うん。おいしい」と夫がいった。
「ほら、ミカも食べてみ?」
「ちょっと、酸味がきつい気がする。でも――」
「ほんとにかわいい」私は桃を慈しむように撫でた。
「太郎、私から産まれた、桃の太郎」
 私も夫も先生も助産師さんもお母さんもお父さんもお義母さんもお義父さんも、桃も、みんなで半笑った。

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