小説

『手長足長の子細を語りたること』木江恭(『妖怪・手長足長の伝承』 『童謡かごめかごめ』『賢者の贈り物(O.ヘンリー)』)

 亀助は、恐る恐る振り返る。
 おつるが――獣のように蹲り、じっと亀助を見上げている。
 その唇が赤く艶々と光って、うっとりと微笑んでいる。
 ほら、早く。あんたのその素敵な長ぁい脚で、あたしを運んでちょうだいな。
 あたしは代わりにこの長ぁい腕で、邪魔なものをみんな薙ぎ払ってあげる。
 おつるのお気に入りだという臙脂の着物から、白い腕が突き出している。
 長く長く伸びたそれは、持て余されて上方に向かい、高く夜空を横切って急降下。まるで蜘蛛の足のように折れ曲がり、亀助の肩を捉えている。
 あたしたち、お似合いねえ、お揃いねえ。そうよねえ、だって夫婦になるんだもの。
 あたしは手。あんたは脚。あたしたち、二人でやっと一人前だわ。
 亀助は己の脚を見下ろした。
 地面に投げ出されたそれは、古木のようにごつごつとして節くれだっている。
 亀助は生まれつき腰が高くすらりとした体格で、それをよく褒めそやされたものだったが、今やその自慢の長い脚は異様なまでに長く伸びて――遠く木々の暗闇の、その先まで視線を巡らせても爪先が見つからない。
 ずるり。異形と化した重たい足を引き寄せると、かくりと折れ曲がる膝小僧は亀助の頭上高くにあり、木々をざわざわと鳴らした。
 その姿はまるで――ぬらりと伸びた、蜘蛛の足。
 よかったわねえ、これでどんどん先に進めるわねえ。
 もっと、もっともっと、もっともっともっともっともっともっともっともっと!
 あたしたち、ずうっと一緒に!
 ずるり。
 おつるが長い腕で這いずって、亀助の背中に取り付いた。

 痛ってえ!髪を引っ張るなよ。
 何だ、怪談は苦手か?でもおかげで、ぞおっとして目が覚めただろう?
 ただでさえ寒いのにこれ以上はやめろって?そういうものかね。最近の連中の軟弱なことよ。
 まあそんなに言うなら、次は怖くない話にしてやろう。

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