小説

『手長足長の子細を語りたること』木江恭(『妖怪・手長足長の伝承』 『童謡かごめかごめ』『賢者の贈り物(O.ヘンリー)』)

 これからどうすればよいのか、亀助は途方に暮れた。もう元の町には戻れない。このまま一人で峠を越えて、また何処かで使用人として雇われるしかないだろう。せっかくいいカモを見つけたと思ったら、却ってとんだ災難を被ってしまったわけだ。
 とにかく、これ以上夜道を進むには亀助の体は疲れすぎていた。足が自分のものではないかのように重く、思うように動かなくなっていた。
 何処か休めるところはないか。引きずるように一歩を踏み出そうとして、亀助はぐいと肩を引かれた。
 まさか、追いつかれたのか!
 亀助の血走った目に映ったのは、白くて小さな手。
 綺麗に生え揃った桜色の爪に、見覚えがあった。
 思えば、そう、何時からか。
 歩いている間中、肩がずっしりと重かったような。
 ――あんた、戻ってきてよう。
 みしり、と肩の骨が軋み、亀助の体はもの凄い力で後ろに引きずられた。
 時間を急激に逆回ししているかのように、景色が前へ前へと吹き飛んでいく。
 背中や足に硬いものが当たり、肌が裂けて血が飛び散る。
 それが地面に滴り落ちるのを見届ける間もなく、亀助の視界から消えていく。
 ほんのひと呼吸かふた呼吸のうちに、亀助は傷だらけになって地面に転がされた。
 見覚えのある大きな茂み。おつるを捨てていった場所だった。
 亀助はのろのろと体を起こし、血腥い匂いに吐き気を催した。
 闇夜のことではっきりとは見えなかったが、奇妙な方向に手足が捻じ曲がって散らばったそれらが、木偶人形なんかでないことはすぐにわかった。
 まるで巨大な怪物に弄ばれたかのように、呆気なく引き裂かれた幾つもの骸。へし折れた木刀、粉々の木片は刺股の成れの果てか。
 ぎちり。未だ肩に食い込んだままの手に、一層力がこもる。その手をよく見れば、爪の間に赤黒い液体がこびり付いている。
 見て、あんた、もう大丈夫よう。あたしが全部、片付けてあげたんだから。
 だから、ほら、早くあたしをおぶってちょうだいな。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11