小説

『白雪くん』大前粟生(『白雪姫』)

 はじめて白雪くんが私たちの家にきたとき、家の前で体育座りしていたとき、白雪くんは家出少年のような身なりをしていたけど――そして本当に家出してきたのだけれど――とても美しくて、触れるだけで壊れてしまうのではないかというくらい弱弱しく、私たちはすぐに「七人で守ってあげようね」ということになった。そのときにはまだ、私たちは白雪くんのことを白雪くんとは呼ばず、白井くんと呼んでいた。でも、私たちのなかでも小さい――といっても大きい――ミカとサキが思い切って白井くんのことを白雪くんと呼びはじめた。「白雪くんってアスパラガス好きなんだ?」白雪くん。それが彼のクラスでのあだ名で、実はミカとサキは白井くんの左右の席で白井くんのことを白雪くんと呼びたくてずっとうずうずしていたのだ。
 白井祐希というのが彼の本名で、前の学校では彼は白井くんとか祐希とかユキとかシロとかユッキーとか呼ばれていた。でも、転校してきたときうちのクラスには黒田由紀ちゃんがいたから、彼は自然とシロユキになって、その流れで白雪になったんだよね。緑ちゃんとかはきみがあんまりきれいだから姫って呼ぶよね、とミカがいうと白雪くんは頬を赤らめてうなずいた。美しい。
「どうして家出をしようと思ったの?」と一番背の高いカオリが聞くと、白雪くんは逆に「なんで七人で住んでるの?」と聞き返してきた。その質問には一番髪の短いエリカが答えた。「みんな、家庭に問題があるの。白雪くんも、だから家出したんでしょ?」
「うん」といって白雪くんは語りはじめた。
 転校してくる少し前のことなんだけど、父さんが死んだんだ。僕は自分でもこんなに涙がでるんだ、ってくらいお葬式のときに泣いた。お母さんも泣いてた。それで、こんなタイミングってちょっとどうなのって思ったんだけどさ、お焼香をあげてるときにさ、ひとりの男の人が僕に近寄ってきて、耳元でこういったんだ。「明日から、僕がお父さんです」って。それで、次の日からその人がお父さんになった。あんなファーストコンタクトをしたくせにさ、新しいお父さんはすごくいい人だった。でもね、なんというか、女子力? すごいんだ。かわいいものとかきれいなものとか、健康的なものとか雑貨とか暖色照明とかフラペチーノとか好きすぎて、それで、その、ええと。
 白雪くんはそこで少しもじもじした。
「あっ、わかったー」とリサがいった。リサは一番ほくろが大きい。「白雪くんがあんまりきれいなもんだから、新しいお父さん、白雪くんにべったりだったんでしょ」白雪くんはうなずいた。「うん、そうなんだ。それで、嫌気がさしちゃって。着の身着のまま家を飛び出して、人気のない方に歩いていったら足が疲れちゃって、座り込んでいたらきみたちがやってきた」

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