小説

『金太郎の恋』露風真(『今昔物語』)

 「我らが見物に行くとして、このままの姿で行くのはどうであろうか」
 「と言うのは、我らも着飾って行くと言うことかな。とても検非違使どものようにチャラチャラとした格好はできぬ」
 思慮深い貞光は金時の顔色をうかがいながら言った。
すると金時が笑い出しながら賛同した。
 「そうさな、東国の田舎者の大男三人が、チャラけた格好で祭り見物などすれば、逆に我らが見物されて京童の笑いとなろう」
 「しかし去年この格好で馬に乗って見物したが、いかにも野暮ったくて恥ずかしかった。何か良い知恵はないかな」と、季武が口を入れた。
 即座に金時が「では、姿を変えて隠れて行ってはどうか」と提案した。
 「いや、それは我ら武人の本分ではない」貞光がピシャリと否定した。
 三人はしばらく黙って考え込んでいたが、ふと「やはり見物したい」と金時がつぶやいた。他の二人も「ぜひ、行きたいものだ」と言い合っているうちに、とにかく祭りに行くことに決まった。次に見物人には気づかれないにはどうすれば良いかに話が移った。すると突然、金時が目を輝かしながら「姿が見えなければ良いのだ」と言った。
 季武は舌打ちをしたが、貞光は「何か手立てはあるのか」と金時に尋ねた。
 「牛車で行けば姿は見られぬが、我らには牛車はない。何処からか借りられれば良いのだが、わしには当てがない」
 「それならばそれがしに当てがある。知り合いの僧から牛車を借りてくるから、
それに乗って見物に行こう」と季武がたやすく言うと、貞光が異を唱えた。
 「牛車に乗っていて、もし見知られた殿上人などに見つかり、身の程知らぬ無礼者とののしられ、車から引き落とされることになると、大勢の前で恥をかくことになる。それだけは死んでも嫌だ」
 「確かにそうだが、我らが乗っていることを知られなければ良かろう。例えば牛車を女車のように見せれば分からぬぞ」
 小知恵のきく季武が策を出すと更に続けた。
 「女車の格好にするには、車から派手な色の下簾したすだれを垂らしておけば、誰が見ても立派な女車じゃ。これで万全だ」

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