小説

『銀河夜行バス』Mac(『銀河鉄道の夜』)

 外見だけでなく、内装まで一世代前か二世代前のそれと酷似している。そして運転席に座っていたのは人間によく似た人。老人のようにも見えるが青年のようにも見える。角度を変えれば女性のようにも見えるし、もしかしたらまだ子供なのかもしれない。いや、本当に人間なのだろうか、なんだか動物のようにも見えてくる。彼女が今まで見たことのない存在であるため、今までの記憶のどれにもあてはまらない。そんな全ての可能性をはらんだ闇が運転をしている。
「おや、どうしました。乗られませんかな」
 運転手は彼女を見ると、ぎらぎらとした笑みを浮かべた。やはりこれはバス……という認識で合っているようだ。
乗ればどこかに連れて行ってくれることだろう。しかし、本能が何か危険だと警鐘を鳴らしてしている。だが……
「……もし、これはバスですよね?」
「はい、そうですよ。第八一三二一系統です」
 運転手はとても丁寧に答えてくれる。外見の認識にちょっとした隔たりはあったものの、言語の壁がないということはありがたい。宇宙服という気密性の高い服は外部との音声も完全にシャットアウトするのに、なぜ会話ができるのか。彼女にはそんなこと考えるのはやめた。なにせ、偶然垂れてきた蜘蛛の糸につかまるのに理由はいらないのだから。
「でしたら、この先地球の上のどこかには停まりますか?」
「はいはい、停まりますとも。今が一一二三五ですから……ああ、はい。ええ。停まりますよ、アラスカに。三十四個先ですけれどもねえ」
 停まる。それだけで十分だ。アラスカのどこに停まるか知ったことではないし、三十四個先までどれだけ時間がかかるのかも見当がつかない。それでも、このままここにいるよりも何光年倍も希望がある。再び、地球に帰れるのだから。
「さて、いかがなされますかな? 次にここに来るバスは、地球は経由しませんが」
 一応ここから少し離れたところの星には地球を経由する鉄道は走っていますけれども。と運転手は柔和な笑みを維持したまま尋ねる。
「はい、乗ります。乗らせていただきます……あっ」
 しかしここで大きな問題に気づいた。
「あの、すみません。私、生憎今持ち合わせがありませんので……地球についてからでもよろしければ……」
 考えてみれば、普通のバスに乗るのもお金がいるのだから、宇宙を走るバスともなれば途方もない運賃がいるに違いない。
「ご心配なく。このバスは無料で走らせていただいておりますので」

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