小説

『銀河夜行バス』Mac(『銀河鉄道の夜』)

 彼女は絶望していた。
 ふよふよと漂う星の海。そんな中にぽつんと残された彼女ひとり。どうしてこんなことになってしまったのか。
 思い返してみれば、なんでこんな仕事を受けてしまったのだろう。抽選で宇宙旅行が体験できるという企画に応募し、とんでもない倍率のなか見事当選。初めての体験で月や他の星々にもっとも近づけると思っていた。ところがオプションの宇宙遊泳中、宇宙を漂っていた石が宇宙船の金具にぶつかり、これもまたとんでもない確率だが命綱が外れてしまった。しかも通信機器も壊れたうえに、そのままどこか遠くに流されていってしまうという始末。まさかこんな超低確率の幸運と不幸が速攻で経験できるとは彼女自身思ってもいなかった。
 しかしこれも彼女自身が宇宙へ行きたいという一心での行動に伴う結果。つまるところ自分の責任だ。「着る宇宙船」と言われている宇宙服ではあるが、ジェットもなければ地球への航路を示す機能もない。彼女に与えられた自由は、いずれは生命維持機能が全て停止するという恐怖のなか、宇宙の海を好きなだけ泳ぎ回れるということだけだ。それこそ自由に。
 しかしそんな中であっても、彼女は落ち着いていた。宇宙に出るということ。宇宙船は飛行機以上の安全が確保されているとはいっても、行き先の宇宙は人が自力では行けない、そして生きていけない環境。それは何かあれば死を覚悟しなければならないところ。ツアー参加前にそのように理解していたからだ。
(地に足をつけずに命が終わるというのもまた一興……)
 静かに辺りを見回してみる。宇宙という場所は岩の塊だけでなく、人工衛星や宇宙船が落としていった破片なども転がっている。
(しかしこれだけ人工物が転がりながらも人の営みを全く感じないとは。先人たちが求めた侘びとは、ここにあったのかもしれませんね)
 ソーラーパネルのようなものや、鉄くずとなって何か全くわからないもの、さすがに死体は見当たらないが、彼女のようにどこかを誰かが漂っているかもしれない。
 もしかしたら。いや、普通は彼女のことを連れ戻しに宇宙船は戻ってくることだろう。しかしこんな不幸が重なる中、その当たり前の可能性に期待できるほど彼女は楽天家でもない。現にもう何時間かこうやって漂っているが、何かがやってくる気配もない。
 ああ、このまま終わるんだな。
 そう理解したまさにその時。彼女の目の前に、見たことのあるものが飛び込んできた。
 丸い鉄板から長い棒が伸び、先には扁平な円柱状の石がついたモノ。
 いやまさか。でもそれしか考えられない。貴音は消耗したくない体力を使い、その物体にまで近づいた。そして、疑惑は確信に変わった。

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