小説

『黒いパンプス』大前粟生(『シンデレラ』『ラプンツェル』『金太郎』)

 エアコン近くの荷棚に乗ったダンボールのなかに、ペンキがたくさんわざとつけられたみたいなワンサイズ大きいコンバースを発見した。コンバースの下にはビデオが入っていた。
「なにこれ?」
「VHSだね」
「いつの間にVHSっていうようになったんだろ。私らが子どもの頃って、ビデオっていってたよね。ねぇ?」というと、ラプンツェル科の女の子が強くうなずいた。
「見てみようよ」とサキがいったので、私はそのままビデオデッキの捜索にかかった。テレビはすでにあって、ブラウン管で、側面に白いペンで落書きがたくさんしてある。「親指姫科緊急アンケート! どの親指姫がタイプ?」と書かれた下に、彼女たちの親指大の人拓が捺されていたりする。
 ビデオデッキはあったが、うまく電源が入らなかった。壊れているみたいだった。
「貸して」とラプンツェル科の子がいって、デッキのプラグの穴に髪の毛を何本か入れて、鍵穴をピッキングするみたいに動かしはじめた。
「えーすごい。こんなこともできるんだ。知らなかった。普通できないよね? なんで? 静電気?」
「直ったと思う」
 電源がついて、デッキに緑色のデジタル時計が点滅した。
「呪いのビデオだったりして」とサキがいった。
 私たちは黙ってラプンツェル科の子を見た。その子の長すぎる黒髪と白い肌が、いかにもという感じだった。私がそう思うのとほぼ同時にその子が毛先を編みこんで、
「できた」といった。
「なに、それ」髪の毛で編まれたそれは曲線的で、船みたいな形だけど、なんだかわからなかった。
「わかんないの?」とその子がいった。
「じゃあ、見るよ」とサキがわざとらしく手に汗握るようにいった瞬間、外から悲鳴が聞こえた。
「なんだよもう!」私が扉を開けて確認すると、よくある光景が広がっていた。女の子たちが膝を立てて廊下に仰向けに寝そべり、汗をかきながら「痛い痛い」「死ぬってぇ!」「ふー!」などと叫んでいた。
「マリア科の子たちが出産のイメトレしてた」
「あー。あの子たちか。ほんとにみんな処女なのかな」
「どうなんだろ。わかんない。というかそもそも、マリアってヒロインじゃなくない? ジャンル的に聖母じゃん」
「この学校よくわかんないよね。ヒーローキャンパスの方には医学部が新設されるらしいし」

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コメント
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    リアリティーがある話かどうかっていうのは、現実世界に起こりうるかどうかではなくて、物語との距離感の中にあると思うんですけど、そういう意味でこの黒いパンプスは非常に現実的でした。「(略)—–ケンジの桃太郎だって私は好き。あんなにおいしそうにきびだんご食べるんだもん」の一文とか、最高ですよね。(10月期優秀賞受賞者:ノリ・ケンゾウ)