小説

『ミスター・ワンダフル』中村吉郎(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)

「叔父さん、とてもありがたい話なんだけど、あまりにも急で今返事できないよ」
「ありがたい事は滅多にないからありがたいと言うんだ」
「一晩考えさせてもらってもいいかな?明日、必ず連絡するから」
「考えんでも答えは二つしかないだろう。この仕事を受けてまっとうに生きるか、受けずに派遣を転々として半端に生きるか」
「わかりましたよ、叔父さん。ぼくも、今までみたいに中途半端な立場で働くのは本意じゃないんだ。決心した。この仕事、ありがたく受けさせていただきます」
 勝は、好夫の決心に上機嫌になるでもなく、変わらぬ不機嫌さで話を続けた。
「よし、決まった。給料や契約条件など、細かい話は全て常務の倉地君と話してくれ。俺が決めると身内贔屓したと言われかねないからな。明日の午前9時、スーツを着て、印鑑を持ってこのオフィスに来てくれるか」
「午前中、用事があるんだ。午後でもいい?」
「駄目だ。まずは仕事を優先、用事は午後にしろ。この仕事、優先順位が一番大切なんだ」
「わかったよ。それでは、明日の午前9時にまた来ます」
「ワインは持って帰れよ。この仕事を始めたらしばらく酒はご法度だ。今日が最後と思って自分で飲め」
「そうか、ワインが飲めるのも今日が最後か」
「年を取ってから酒をやめるのは至難の技だぞ。これもありがたいと思えよ」
「そうかも知れないね。ありがとう、すぐる叔父さん」
 失業中の身として、仕事が決まったことはこの上なく嬉しかったが、あまりに突然のことに、まだ信じられないという表情を残しながらも、好夫は笑顔で言った。
「明日9時、15分前には来いよ」
 好夫を見送った後、勝は再びソファに座り、煙草に火をつけた。時計を見ると、午後8時を過ぎている。間もなく、倉地が帰って来る時間だ。

「お疲れ様です、小林家葬儀、全て終わりました」
 経机を手にした倉地が帰って来た。今日オフィスに「メリー・クリスマス」と言わずにオフィスに入って来たのは倉地が初めてだったので、勝も珍しく不機嫌そうな表情ではないが、笑顔一つ見せないのは相変わらずだ。
「ご苦労だったな。君のおかげで、俺も徹夜の数が減ったので助かっているよ」
 無愛想な物言いではあるが、「助かっている」などという言葉を海老カツから聞くのは初めてなので、倉地は驚いた。これで、明日休みがもらえるかどうか聞きやすくなったと思った途端、勝は続けて倉地に指示を出した。
「ところで明日の予定だが、午前9時に新人の面接をしてもらいたい」

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