小説

『光の果てに』あいこさん(『竹取物語』)

 老婆は、深呼吸をした。
「人々には知らされていなかったが、そのころ、極秘で宇宙に移り住む計画が着々と進められていた。そうやって作られたものが宇宙都市じゃ。もちろん、宇宙には酸素がないから、人間は生きて行くことができない。しかし、ある科学者が作り上げたんじゃ。最初はヘルメットに始まり、マスク、のちに、注射を打つことで、人間も宇宙で生きていくことができた。しかし、みんなが本当にそれを必要としたわけではない。一部の権力者と、宇宙開発には欠かせない、世界中から集められた優秀な学者たちだけが宇宙へと脱出したんじゃ。そのころの世界人口は約130億人じゃったが、宇宙へ行けたのは、たったの1万人ほどじゃった。あとの人々は、壊れていく地球に残されたままじゃった」
 シワくちゃの老婆の目には涙が溢れていた。
「あの日のことは今も忘れない。十五夜じゃった。地球を離れながら、まるで自分が“かぐや姫”にでもなったような気分じゃったよ。わしは、そのころ193歳で世界最高齢じゃったから、学者たちからはずいぶんと興味深い存在じゃったんじゃろう。わしは宇宙行きへ乗せられたんじゃが、薄くとも、わしの血が通った子らを連れていくことは許されんかった。一部の者たちが極秘に地球を脱出する準備をしている中、どこかからその話が漏れてね。ただでさえ荒れている世の中で、暴動はこれまで見たこともないくらい、みな怒り狂っていたから、わしは知らされないままに拉致されたかのように宇宙船へと乗せられ、家族に別れの挨拶すらもできなかった」
 老婆の目からは涙が溢れ、シワをつたってポタリとこぼれ落ちた。
「宇宙に向かうロケットの中で、またしてもわしだけが生き残ったと途方に暮れたよ。そして、わしは確信したんじゃ。子どもたちや孫たちが、与えられた生を全うしていく中、どうもわしが死なないのは、あの日の、あの夜の光のせいだと。わしが願った、―みんなには決して手に入れられないものを、この私に―。あれは、永遠の命ということじゃったんじゃ。こんなにも科学技術が発達し、もう、宇宙にまで移り住むことになったというところで、科学では説明できんことをわしは確信した。わしは、あのとき、あの光で…、わしは魔法を、いや、呪いをもらったんじゃ! そして、それはわしを苦しめる。今でもじゃ。地球の終わり、そして何よりも夫、子ども、孫…、愛するものたちとの別れじゃ。わしは…、わしだけ…、わしだけが生きておる」
 悲しみと怒りが入り混じった老婆の泣きじゃくる姿は、見ているものに恐怖すら与えた。周りの者はかける言葉も見つからず、ただ泣きじゃくる老婆を見つめていた。
 しかし一人がハンカチを差し出したことをきっかけに、老婆の背中をさする者や、皆、老婆の気持ちを思い、心を痛めた。
「ありがとう」
 涙を拭いた老婆は、大きくため息をついた。しばらくの沈黙の後、老婆はこう続けた。

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