小説

『オクリモノ』村越呂美(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)

──容疑者のいとこ・小柳秀美(28)の証言
 周子ちゃんが18歳になるまで二年くらい、うちで一緒に暮らしていました。高校を出てすぐ周子ちゃんはうちを出ちゃったけれど、年に何度か、電話では連絡を取っていたんです。たまには会おうって言っても、それは嫌だったみたいで、なんだかんだと理由をつけて断られていました。
 うちにいた頃から、周子ちゃんは本当に良い子でしたよ。勉強ができて、家の手伝いも良くしていました。
 はい、周子ちゃんのお母さんのことは、なんとなく知っていました。母も心配していましたから。周子ちゃんのお父さんが、母の弟、なんです。
 周子ちゃんが、ご両親のことを話すのを聞いたことはないですね。なんか、いつもすまなそうにしていて、両親がしでかしたことは全部、自分のせいだと思っているみたいに見えました。
 事件の後、弁護士さんを通して、周子ちゃんから手紙が来ました。ご迷惑をかけてすみませんって、預金通帳が入っていたって。
 どうして、こんなことになっちゃったんでしょうね。
 被害者の方には本当に申し訳ないんですが、なんだか私も、うちの親も周子ちゃんがかわいそうで、かわいそうで。
 こんなこと言うと怒られると思うので、記事にはしないで欲しいんですけれど、私、思うんです。自分でもよくわからないような理由で人を殺してしまう人って、実は自殺をする人よりもずっと深く絶望しているんじゃないかって。そう思うとね、なんだか胸が痛いんです。被害者の方も、そのご家族も、周子ちゃんも、みんなかわいそうで、本当につらいことですよね。
 あの、周子ちゃんに差し入れとか、できるんでしょうか? 
 食べ物はだめなんですか。じゃあ、お金ならいいんですね。でも、お金を渡しても、それであの子が自分で食べ物を買わなかったら、だめですよね。
 周子ちゃんは昔から食が細くて、本当に生きることに全然欲がなかったんです。ご両親がなくなって、保険金とか自宅を売ったお金とかすべて、うちの両親に渡してしまって、うちにいた頃、自分のモノを買ったことなんて、ないんじゃないかしら。おしゃれとかしたい年頃だったはずなのに、ね。
 アルバイトで貯めたお金も、うちを出る時に置いていっちゃったんですよ。今までお世話になりましたって、手紙と一緒に。
 どうやったら、私はあの子に、何かしてあげられるんでしょうね。あの子が喜ぶ贈り物って、あるのかしら。
 何をやってもよけいなお世話になっちゃいそうな気もするけど、だからって、何もしなくて良いとも思えないんです。だって、人が人に何かをするって、感謝されるためじゃなくて、ただ、少しでもその人を助けたいからですよね。
 だから、うるさがられても、迷惑がられても、あの子を心配している、生きていて欲しいと願っている人間がいるって、私はそのことを伝えていきたいんです。
 雑誌、出たら送ってくださいね。あの子のこと、ちゃんと調べて、教えてください。

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