小説

『兄妹が産んだ誓い』梶野迅(夏目漱石『吾輩は猫である』『浦島太郎』)

「あなたは、私一人だとお思いでしょうが違います。世界には何人も同じ悩みを持つ者がいます。」
「そんなに居るのですか。」
「父と母が居る限り、増えるかもしれません。」
「減るかもしれないのですか?」
「今、仮死状態になっている人を一人知っています。」
「ではあなたも死んでしまうというのですか?」
「父と母次第ですね。」
「あなたは動かなければ人を悲しませることもないのに、なぜ動くのですか?」
「それはなぜか分かりません。ただ父と母に笑顔になってもらいたいから動いてしまっているのだと思います。」
「笑顔とは?」
「分かりません。ただ私は父と母の流す血と涙の中に何かを見た気がしたのです。」
「ではあなたのお父様とお母様に現在の状況をなんとかしてもらえばいいのですね。」
 それから五年経った夏のある日、その人は父と母に出会った。
「もうそろそろ何とかしてくれるよう話はつけました。」
「本当ですか。」
「多分大丈夫だと思います。」
「ならいいのですが。」
「不安そうですが。」
「そうですよ。なぜなら前よりますます元気になっているのですから。嫌な予感がします。」
「親を信じましょう。」
「私は遺書を書かなくてはなりませんね。」
 それから三年経った夏の日、母は禁断の箱を開けた。そして箱の中のものを父に贈った。その箱を父に受け取って欲しくなくて私はジタバタした。するとまばゆい光と共に父の国の街が二つ、跡形もなく消えた。
 それと同時に私も消えた。消える音は私が遺言を読み上げる声だった。その遺言を聞いた父の国の住人は瞬時に老人へと変わった。

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