小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

「あーしは自分の中にある闇を、そろそろ笑いに変えたいんだわ。そうすれば楽になれる気がしてさ」
 そう言って、白雪姫は眉を下げて笑った。相変わらずあぐらをかいて座っていて、片手にはいつものりんごサワー。珍しくしんみりした雰囲気になったけれど、白雪姫のゲップで帳消しになった。
「そんで、あんたは、本当は何がやりたいの?」
 本当にやりたいこと……。
「……料理」
「料理?」
「……はい。私、本当はお城で守られるお姫様よりも、お城の人に料理を出すような、一流の料理人になりたいんです」
 私はこの時、初めて自分の夢を人に話した。話したとたん、顔がカーッと熱くなって、思わず手で仰いだ。料理人になりたい。でも、どうせなれっこない。なれっこないという気持ちは、シンデレラの人生を繰り返す度に、大きくなっていったのであった。
「え、フツーによくね? あんたのサンドイッチ、激ウマだったし。イケるっしょ、その夢」
 白雪姫は、白い歯を見せて笑った。
「……あーし等ってさ、世界中の女子達の憧れだとか夢だとか言われてんじゃん。でも実際、あーし等は自分では何もしてないんだよ。普通の人よりキレイだから、壮絶な人生送って人の痛みが分かるから、たまたま王子と結婚できただけなんだよ」
「そ……そうなんですかね」
 痛いところを突かれ、私は下を向いた。
「だって、あんたが実際やったことって、魔法使いの用意してくれたガラスの靴、わざと片方落としていったことだけっしょ。あとは王子が迎えにくるの待ってただけじゃん。大人しそうにみえる女って、案外したたかなんだよなー」
 私は白雪姫をどついた。
「あれは!!わざとじゃないんです!!慣れない靴で、本当に自然と脱げたんです!!!人聞き悪いこと言わないで下さい」
 ガラスの靴は、何回はいても靴ずれしてしまうのだ。あれで踊るとか、走るとか、拷問だと思う。

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