小説

『約7000羽』大前粟生(『ヨリンデとヨリンゲル(グリム童話) 』)

ツギクルバナー

 この部屋には鳥がたくさんいる。あなたの部屋よりも、ずっと大きな部屋。たぶん、7000羽くらいの鳥がいる。一番多いのは小鳥。燕やすずめや小夜鳥。その次に鳩とカラス。ペリカンやフラミンゴ、クジャクなんかもいる。昔の姿と関係があるのだろうか。フクロウは一羽もいない。羽毛布団の羽は、どの鳥のものなのだろう。鳥たちはカゴに入れられていて、鳴いている。人ゴミの真っただ中にいるみたいにうるさい。だれかが仕切らなければいけない。このなかで一番の古株はだれだろう。一見したところ、青鷺に見える。だが、そうではないかもしれない。もともと歳をとっていただけかもしれないのだ。そもそも、鳥同士で言葉は通じているのだろうか。私を基準にして判断することはまだ、難しいだろう。種類ごとでちがうのかもしれない。カラスにはカラスの言葉しか通じなくて、トンビにはトンビの言葉しか通じないのかもしれない。もしかしたら、カラスのなかにも複数の言語があるのかもしれない。人間の言語がたくさんあるように。そもそも、彼女たちは言葉を話しているのだろうか。羽が粉塵のように舞っているが、舞っているといえるだろうか。部屋に浮く羽と羽の間には少しの隙間もなくて、魚群を遠くから見るように、一枚一枚ではなく、かたまりとして羽がある。かたまりは落ちていっているのだが、その上に新たな羽々が重なって、消えない雲のように見える。雲とちがうのは、色だ。白い鳥がもっと多ければ、きっときれいだった。でも、一番多いのは茶色とか灰色。その次に黒色。調和しない色彩が、立てかけた川のように落ちて、別の色があとを追いかけていく。フラミンゴの羽やクジャクの羽を見つけると、少し得した気分になる。なにかいいことがありそうな気がする。でも、クジャクの羽はちょっとこわい。目がついているみたいだ。クジャクの羽は、何色と呼ばれているのだろう。羽が、床に溜まっていく。そのうちに、雪のように積もって、この部屋を覆い尽くしてしまうのだ。それでも鳥たちは羽を落とすのをやめない。昔、髪の毛が抜けるのを止められなかったように。部屋は羽で埋まり、さらに羽が落ち、やがて羽は羽の重みで圧縮されて、鳥たちは羽に潰されてしまうのだろうか。たぶん、そうはならない。ほら、ノックの音がして、扉が開く。おばあさんがやってくる。

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