小説

『歌えメロス』ノリ・ケンゾウ(『走れメロス』)

 メロスは青年の提案に感嘆の声を上げ、そもそもニートなのであればつべこべ言わずに自分の代わりにM屋で働けばよいではないか、などということは微塵も思わずに、
「なんと勇敢な青年だ。名はなんという」
と、青年に名前を尋ねた。
「セリヌンティウスです。あなたは」
「メロスだ。超一流営業マンの、メロスである」
 そうして握手を交わす二人。M屋を通じ、ニートと超一流の垣根を越えて男と男が繋がった瞬間である。
「バイトリーダーよ。どうかこの勇敢な青年に免じて、三日間の猶予をくれないだろうか。」
 メロスと青年の提案を聞き、バイトリーダーは内心で、笑いが止まらなかった。馬鹿な事を言う。この超一流営業マンを自称する男が、わざわざ自分の仕事を辞めて、牛丼屋チェーン店の一アルバイトとして働くはずがない。一体どのポイントで感動したのか知らぬが、このニート風の青年がこの男を信じ、そして裏切られた末、この店でアルバイトとして働き、それを自分がいびり倒して二度と社会復帰できないようにスクラップにしてやるのも面白いかもしれない。そう思ったのである。
「分かりました。いいでしょう。そこまで言うのなら、三日間だけ待ちましょう。その代わり、土曜の日の出までに店に来なければ、必ずやこの青年をアルバイトに雇いますよ」
「助かる。俺は正義の男で、超一流営業マンだ。必ずや金曜日までに引き継ぎを終わらせ、送別会で同僚たちが涙を流す程のスピーチを行い、そしてこの場所に戻ってこよう」
「ほほほ、承知しました。たしかメロスさん、と言いましたかね。ちょっと遅れてきたらいいですよ。そうすればこの青年があなたの代わりに店で働くことになるだけですから。私はあなたが本当に仕事を辞めたのかまで確認するつもりはございませんので」
「何を言う!」
「自分の生活が惜しければ、遅れてきたらいいんです。メロスさん、あなたの心は分かっていますよ」
 メロスは口惜しく、ボーナスが支給された時に買ったイタリア製の高級革靴で、地団駄踏んだ。さすがは高級革靴、カツカツと小気味好い音が店内に響いた。

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コメント
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    みんながイメージしやすい開かれた着想。若手お笑い芸人さんのネタみたいな疾走感があって素敵です。(9月期優秀賞受賞者:紅緒子)

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    現代的で俗っぽい“牛丼屋”で、古めかしい断定口調で強めに言い合う。何とまあ、バカバカしいお話だろうか(笑)。気に入った。映像化求む。(9月期優秀賞受賞者:須田仙一)

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    古風な文体に、我道をゆくメロスや取り巻く状況がどこかシュールで面白かったです。「クソニートのくせに、調子に乗んなボケ」で笑ってしまいました。(9月期優秀賞受賞者:二月魚帆)

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    誰もが知っている『走れメロス』を題材にしたのも面白いが、その最初の印象的な文「メロスは激怒した」を、とてもくだらない理由で使ったが素晴らしいと思います。やっぱり物語は、最初の掴みが一番重要ですので。こういった目を引く書き方を私もしてみたい…。(9月期優秀賞受賞者:襟裳塚相馬)

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    作品自体の面白さで考えるとどの作品も甲乙つけがたく、とても一つを選ぶことができませんでしたので、映像化との相性を基準とさせていただきました。本作の軽快なテンポ、ユーモアあふれる台詞回し、動的な展開は、映像化によってさらに面白さが増すだろうと思われ、是非見てみたい!と感じました。監督や脚本、役者によって作風がかなり左右される作品だと思うので、映像にした時にどんな仕上がりになるのかも楽しみです。以上の理由より、最終候補作品の中で最も映像化に向いていると感じたので、本作を選ばせていただきました。(第2回最終候補:木江恭)

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    走れメロスが忠実に現代に再現されている上に、一体どうなるのだろうかと新鮮な気持ちで読み進むことができました。(第2回優秀賞受賞者:吉倉妙)

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    映像になったら1番楽しそうだなと思いました。コミカルなメロスが見てみたいです。(第2回優秀賞受賞者:和織)

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    おもしろいの一言。読めば、わかります。メロスと現代が不思議とマッチして、おもしろさが加速していきました。超一流のスーパー営業マン、メロスが映像で活躍するところをぜひ見たいです。(第2回優秀賞受賞者:田中りさこ)