小説

『Dカンパニー』サクラギコウ(太宰治『グッド・バイ』)

 カブラギから、プランが出来上がったという連絡がきたのは3日後だった。結城はその速さに満足した。
その日の午後、カブラギと相棒の女が会社へやってきた。女は紺のスーツにパンツ、白のシャツ姿だった。特徴がなく、どこにでもいるリクルート社員のようだ。顔かたちは一応整っているが、化粧をしているのか、いないのか分からない程飾り気がない。髪は一つにまとめていた。真面目な高校生がスーツを着たような姿に、結城は少し心配になった。
「あなたが、コンビを組む女性ですか?」
 結城の質問にはカブラギが答えた。
「当社一押しの社員です。彼女の成績は常にトップです。安心してお任せください」
 女はアヤと名乗った。結城は不安になったが、カブラギがそこまで言うなら信じてみようと思い直した。失敗したら違約金が返ってくるのだからと。
 結城はカブラギの作成したプランの説明を聞き始める。

 結城が依頼した1人目は、サクラという23才の女で女性下着店の販売員だ。売上実績はまあまあだが、客に対して親切な態度は好印象を与えているようだ。性格が良く情が深い女だった。ただ顔は平均以下だ。
サクラは結城という彼氏が自慢だった。だが常に不安を抱えていたのも事実だ。いつか捨てられる。釣り合わない彼女を嫌いになるときが来るのはないかと、怯えているのだ。
 アヤとは午前11時に渋谷のハチ公前で待合せた。結城は5分前に着いたが、ほぼ時間どうりに結城に声を掛けた女がいた。それがアヤだと気づくまで暫く時間がかかった。紺のリクルートスーツのときの印象とあまりに違っていたからだ。
 一見してブランドと分かるワンピースはミニで、細くて形の良い足がすくっと地面に伸びていた。小さめのきらきら光るバックを持っている。綺麗な栗色の髪は巻毛にして肩に落としていた。結城は声がでなかった。
「じゃ、行きましょ」
 アヤがそっけなく言った声で、結城は現実に引き戻された。
 サクラが働いている女性下着の店は渋谷のアーケード街にあった。仕事中に突然行き問答無用に別れを決意させようというのだ。
 アヤが先に店に入った。「いらっしゃいませ~」とソフトな声が聞こえる。サクラの声だった。結城が後から入りアヤの隣に立つと、アヤは結城の腕に腕をからませ、極上の甘い声を出した。

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