小説

『Dカンパニー』サクラギコウ(太宰治『グッド・バイ』)

 美玖に化けたアヤが
「人の婚約者に手を出して、ただで済むと思ってるの⁉」と凄んだ。さすがアヤだ。
「婚約したの?」とレイカが結城に確かめる。結城は頷いた。
「あんたのダンナ、ナナワ銀行の新宿支店の支店長なんだって?」
 どうしてそんなことを知っているのかという顔のレイカ。結城にも話してなかったからだ。しかし次の言葉でレイカの顔が蒼白になった。
「娘は白菊女学院でしょ。厳しんだよね、あそこ」
 レイカはもう戦意を喪失していた。黙って服を着始めた。
「ババアの癖に、若い男としけこむんじゃねーよ! 二度と会わないとこれにサインしな!」
 アヤはA4にプリントアウトした紙を差し出した。「誓約書」となっている。今回はきちんとした書類だ。
 レイカは無視し、急いで出て行こうとするがドアの外でカブラギが立っていて帰れなかった。渋々レイカはアヤの元に戻り、乱暴にサインをして言った。
「二度と会わないと誓うから、私や家族に近付かないで!」
 その言葉を聞いて、アヤは少し微笑んで言った。
「了解」

 それにしても4人とも見事だった。アヤが成績トップというのも頷けることだ。
 カブラギがこれで契約終了となります。書類にサインしていただいたら我々も帰りますと言った。アヤは車の中にある書類を取ってくると言って出て行った。
 結城は達成感でいっぱいだった。今日はこの部屋で過ごそうかと思った。折角とった部屋だ。アヤを誘ってみるのも悪くない。仕事は全て終わったのだ。固く考えることはない。ルームサービスでシャンパンでも頼もうかと考えていた。
 アヤが戻ってきた。手に茶封筒を持っている。
「凄いよな、君の腕は。おかげで綺麗に4人の女と別れられた。良かったら一緒に乾杯しないか?」
 アヤの表情が険しかった。やはり駄目か。この女は仕事はできるが、遊び心が全くない女だと結城は心の中で舌打ちした。

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