小説

『モンキーアンドシザーズ』笠原祐樹(『猿カニ合戦』)

 「結局、カニイはどうして自殺したんだろう?」
 それはその場にいる四人が長い間抱えていたにも関わらず口にするのを避けていた言葉だった。それでも、そのウスキの穏やかな口調はほんの少しだけ悲劇の温度を下げ、過去を受け止める覚悟を三人に与えた。
 「あの子は自殺するような子じゃなかったのに」同性ならではの二人だけの思い出があるのだろう。チュウバチは今にも泣き出しそうな声で言った。
 「俺はいまだに信じられないよ」普段は軽口を叩き、陽気なサルタもさすがに湿っぽかった。
 「でもあの子にはいずれ真実を話さなくちゃいけない」グループでは常にリーダーとして頼られてきたクリヤマが言った。
 「何をどうやって伝えればいいの?仕事に行ってるっていうのは嘘で、あなたのパパは誰か分からない。ママは自殺したのよって?そんなこと言えるわけないじゃない」とチュウバチが言った。
 ウスキが間髪入れずに言った。「それはそうだよ。例え彼女が大きくなっても残酷すぎる」
 「そもそも俺達だって何も知らないしな」とサルタが言った。
 「みんなあれからあの事件のこと調べたりしたか?」クリヤマは三人を眺めながら言ったが、三人とも首を横にふっていた。「六年間もみんな心の奥に閉じ込めてたってわけか」
 「しょうがないじゃない。遺書無し。自殺の証拠あり。理由なんて誰にも分からない。彼女は何も言わずいなくなった。私達の誰にも何も言わず…」チュウバチの目は少しうるんでいた。
 「でもさ、娘を残して死ぬっていうのはよほどのことだよ。何かあったのは間違いないよ」ウスキが言った。
 「そんなことは分かってる。あいつは誰にも言えない大きなものを抱えてたんだ」サルタの目にも涙があふれていた。
 「みんな、感傷的になるのはよそう。問題は過去じゃなく現在だ」
 クリヤマがそう言っても三人は目を伏せながら、過去の悲劇を振り返っていた。今まで押しとどめていた濁流は一度決壊するともう止めることはできなかった。各々は無言のまま、なすすべもなく悲しい過去に身を流されていた。
 「俺はまずは父親を探すべきだと思う」沈黙を破りクリヤマは言った。「父親さえ見つかればきっとカニイの死の理由も分かるはずだ」
 「探すってどうやって?」とチュウバチは言った。

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