小説

『怪物さん』大前粟生(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)

――そうですよね。みなさん勘違いしてらっしゃる。そのフランケンシュタインさんとは、今でも交流がおありで?
 ええ、もちろん。
――なにかフランケンシュタインさんとの一番の思い出とかありますか。
 わたしが北極点に消えていったあとのことなんですが、実は、迷子になってしまって、薄暗い霧のなかで、彼に会えたんです。フランケンシュタインさんは船の上で死んだんですけど、それはフィクションですからね。そこからはわたしたち、お互いの非を謝りあって意気投合しましてね。おんぶして帰ったんです。彼を。そのとき、なんだかわたし、自分が父親に、いや母親になったみたいな気になりました。彼は焼肉が好きで、彼はこだわりが強いですからね、わたしの体を熱して、その上で肉を焼いたりしました。肉はわたしが調達してきました。いらない肉はそこら中に歩いていますからね。
――あらあ、びっくり。母親といえば、原作者のシェリーさんはどんな方ですか。
 いやあ、さすがに会ったことないですよ。なにせわたし、シェリーさんが生きていたときは紙の上の存在でしたから。
――でもほら、さっきもおっしゃってたけど、あなたいろんな映画に出ていらっしゃる。どの映画が自分では気にいっていますか。
 それをいうと、まだ映画を見ていない方に偏見が生まれてしまいます。でも、強いていうなら、フランシス・フォード・コッポラ監督の「フランケンシュタイン」ですかね。あれは原作に忠実で、カメラアングルが新鮮で、つい青春時代に戻ったみたいな気分になりました――あのはじまりのスターウォーズ感、好きですね。といってもわたし、原作読んでないんですよね。なんか恥ずかしくって。自分が出た映画も、試写を見るだけで、それっきりなんです。
――映画に出るのは、つらくないですか。昔を思い出して。
 そこはもう、割り切ってやっています。これはわたし自身のことだけど、わたしはわたしではなくわたし役として出ているんだって。それに、昔を思い出すのは悪いことばかりではありません。そりゃあ、つらいですけど、その負のエネルギーが大事なんです。怒るときなんかには。とにかく、作品がおもしろくなることが第一だと考えています。

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