小説

『怪物さん』大前粟生(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)

――ええ、そういうイメージ。
 生まれたときからこの体だったわけで、その部分はまあよかったんじゃないかと。あんまり迷惑をかけなかったんじゃないかと。
――でも、意識は最初からあったわけですよね。
 いや、それも、実は徐々になんです。人間たちを観察していくうちに、自然とまねをするようになった感じです。
――あなたを作ったのは、博士でもなんでもない大学生だったわけですが、そこらへんはどうお考えですか。
 そうですね。うーん。博士でも大学生でも、どちらでも構わないですね。でも、フレッシュさっていうんですかね、彼の情熱たっぷりなところは好きでした。それに、わたしを創造した彼も、後の作品では博士として知られていますし。
――少年時代とか青年時代とか、そういう風に怪物さんの人生を区切ることはできますか。
 そうですね。やっぱり、作られてから捨てられるまでと、捨てられてからスイスまで旅をする時期と、人間たちを殺しまわる時期ですかね。
――わたしとしては、怪物さんが「神のわざ」を体得されたときとか、感動しちゃいました、あぁ、しゃべってるしゃべってるって。人間たちを殺してまわる時期なんかも、スカッとしましたよ。
 本当ですか。そういってもらえるとうれしいです。でも、彼に悪いことをしたなあと思っています。反省しています。花嫁を作ってもらえないからって、逆上するなんて。
――原作は書簡体小説だったわけですが、後の映画や二次創作作品では、怪物さんの知能が低くなっていたり、ほとんどしゃべれないキャラクターとして設定されていますね。それには、怒ったりはしないんですか。
 最初は、なんでこんなバカみたいになんだよって思いました。でも、彼らはなにも悪意があってやっているわけではなくて、なにか伝えたいことを伝えるために、わたしをいかにも人造人間、という設定にさせたんだと思います。
――最後は、怪物さんは創造主の死を嘆いて北極点に消えていかれましたね。
 ええ、寒さは感じないんでね。なるべく人間のいないところにいきたかったんです。

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