小説

『怪物さん』大前粟生(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)

――「人生は一期一会」をご覧になられたことはありますか。
 ええ、毎週楽しみにしています。
――本当ですかあ? みなさんそうおっしゃる。
 先々週のミイラさんの回がよかったです。あと、ゾンビさんの回も。
――どことなく怪物さんと似てらっしゃる。
 本当ですね。でも狼男さんの回はとても驚きました。まさか満月の夜に、屋外で収録するなんて。
――結局変身はされなかったんですけどね。雲が多くて月が見えなかったんで。でも、実は収録が終わったあとに、ちょっとだけ彼、変身しちゃったんです。
 えっ。大丈夫だったんですか。
――えぇ、ハンターの人がずっと待機してくれていたので。そのあとお墓を掘るのが大変でした。怪物さんは、急に暴れたりしないでくださいね。
 ええ。そちらがなにもしない限りは。
――おーこわ。
 でもよかったと思います。偏見の少ない世の中になって。昔はわたし、ずっと石を投げられていましたからね。わたしはなにもする気はないのに、人間たちはわたしを見るとそれだけで石を投げるんです。これは、主に映画版の話ですが、森に住むバイオリン弾きのおじいさんだけがわたしによくしてくれたんです。
――そりゃまたどうして。
 そのおじいさんは目が見えなかったんです。だからわたしのことをこわいと思わなかった。結局、そのおじいさんの家は心ない人間に燃やされてしまうんですけど。ニンゲン、ユルサナイ、ウオー!
――ところで怪物さん、十九世紀はじめですか、あなたは作られたわけですが、目が覚めたときから記憶があったんですか。
 ええ、でも、はじめのうちはあんまりなにも思いませんでした。生まれた、という実感もありませんでした。
――赤ん坊みたいに泣いたりは。
 しませんでした。ただ、むくっと起き上がっただけでした。十一月のわびしい夜か、雷のなり響く夜だったと思います。町にはコレラが流行っていたかな。正確には覚えていないんですけど、でも、たいていそういうシチュエーションじゃないですか。

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