小説

『硝子細工』酒井華蓮(『堕落論』坂口安吾)

 しかしおよそ目の前の美人が生み出した状況とは思い難い。
 特に煙草。今回の彼氏は煙草が嫌いだった上よく部屋に来ていたようで美麗も隠れて吸ったり、家でもベランダで、と遠慮していたようだがそれが解放されてこれだ。どう考えても反動、何事も極端というのは良くないと実感した。
「だからって堕落し過ぎ」
「私、堕落してない」
「は?」
 どこからどう見たって堕落だ。流石にそれは彼女も認めるべきだ。
 今まさにその細長い指に挟んでいる煙草は何だ。最近は控え気味だったというのに。
 若干苛立って投げ込み気味に大きな袋にテーブルの上の諸々のゴミを入れていく。
「元々私はこういう人間。今までが異常なの。だって自由になって私しかいない部屋が現にこうなってるんだから、これが本当じゃない?」
「それは、まあ…」
 時々こう小難しいことを言い出す。これも大学の友人なんかの前では言わないようで、確かにこんなに難しいことばかり言っていたら変わり者認定されそうだ。
「周りが勝手な理想持つんだもん。彼氏も含め。外での生活が理想化されすぎているだけ」
「確かにあの周りの空気はね…」
 幼馴染の私は、彼女が本当は大衆的な子だと知っているが、確かに学食で「本当お人形みたい!」と皆の前で言われて称賛されてしまっては鳥重やカレーは頼みにくいだろう。
「ね?せめて夏休みは好きなようにしようと思って。誰かに何か聞かれたら帰省してますとか言っといて。これでもバイトの時はいつも通り綺麗にしてるから安心して」
 バイトの時は、というか普段でもあまり人が家に来ないとなると彼女はこんな感じだ。
 家の外に見せるそれこそ「外面」だけがいい。
「そういえば今回はどうして別れたのよ」
「なんか私がよく他の男に口説かれたりナンパされたりするから落ち着かなくて疲れるんだって」
 彼女は自分の美しさを理解している。それはそうだろう、周囲の環境に気づかされただろうし、なんだかモデルのようなバイトも前にしていた。

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