小説

『硝子細工』酒井華蓮(『堕落論』坂口安吾)

「ねえ何この部屋臭過ぎるから!窓開けるよ!」
 幼馴染の美麗が彼氏と別れたのが夏休み前。
 夏休みに入り、遊びや飲みには割と参加する方なのに最近断ってばかりいるし、一緒に所属しているテニスサークルにも参加しないから落ち込んで塞ぎ込んでいるのかとマンションに来てみたが、これは酷い。
「一週間前に来た時は凄く綺麗だったじゃない…」
 まず部屋が異様に煙草臭い。別の何かの匂いも混ざっているようだが何だかわからない。
 玄関にゴミ袋がいくつか積んである。ゴミはまとめてあるのかと安堵したのも束の間、リビングの隅に要らないであろう雑誌の山、服は恐らく取り込んだ洗濯物の中から引っ張り出して着ているようで窓辺に散らかっている。
「真理子が煙草嫌いなだけでしょ」
 来客など無いとでもいうようにソファーに伸びている親友は普段の小綺麗さが嘘のようにノースリーブにショートパンツ、アイスまで咥えて夏休みの小学生のようだ。
「いや良く分からない匂いと混ざって大変なことになってるから。あーあー、ゴミもちゃんと捨てなさいよね」
「ごめん捨てといて。今度何か奢るから」
「あんたは…」
 昔から美麗は実生活がだらしないというか、無頓着すぎる。
 容姿はその名の通り美麗なのだ。スタイルは抜群で、一緒に歩いていても少し離れた隙にナンパされていて、いつもいい匂いがして、素地が良い上メイクも上手で。
 大学では男女共に人気の存在なのだが、こう、幼馴染である私の前では本性が表れ過ぎている。もう少し隠しておいてくれてもいいのではないか。
 世にいう「キレイめ」の服が好きなのも相まって、「綺麗好きそう」「お上品」「絶対A型でしょ」なんて言われているのを見て何度も笑いそうになった。
 この通り本性は綺麗好きでもないズボラな、O型だ。
「折角の美人が台無しじゃん。美麗ならすぐ新しい彼氏できるからちゃんとしてなよ」
「独り身を謳歌してるんですー。こういう長期休みに彼氏いないの初めてなんだよね」
 ソファーの前に置かれたテーブルにはノートパソコン、空いている幾つもの缶ビール、いっぱいの灰皿、カップ麺と積まれたレンタルDVD。何かのアニメを一気見していたのか中々の量がある。恐る恐るレシートを引っ張りだしてみたが返却期限はまだのようだ。

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