小説

『双子の山羊』宮城忠司(北欧神話『タングスニとタングスニョースト』)

ツギクルバナー

 亮三の父が親戚から山羊の子を貰い受けて来たのは三年生の春だった。父はその日のうちに鶏小屋を改造して藁を敷きつめ山羊小屋を作った。
 亮三は嬉しくて父の造作を手伝った。子山羊を無事夕刻に新装の小屋へ入れ、父がキセルで旨そうに煙草を吸い始めた。いつになく機嫌が良さそうな横顔を見ながら
「父ちゃん?この山羊、オラ世話する」
「勝手にしろ!」
 翌朝、空が明け始めると同時に寝床を飛び出し山羊の様子を見に走った。子山羊は新しい藁に包まり亮三を振り返った。優しい薄茶色の目をしていた。朝ご飯前に柔らかそうな草を用意しなければいけなかった。亮三は背負い籠を背中に、畔草を刈った。子山羊の食欲は旺盛だった。亮三は子山羊をメイ子と呼ぶことにした。
 子犬と同じで純白のメイ子は両手に抱えることができ、じかに命の鼓動が感じられた。日曜日には草刈り場に連れだし思う存分遊ばせた。なついたメイ子は亮三の傍を離れることはなかった。
 三ヶ月を過ぎると、成長の早い山羊は亮三の何倍もの体重になっていた。その頃になると以前と比較にならないほどの草を与えなければならず、足りない分は小麦を精麦した後に残る栄養価の高いフスマを混ぜた。
 草紅葉が終わる晩秋は芋の蔓や刈り取った稲株から二度生えする青草を食べさせた。山羊も雪が降る季節が分かるようで餌不足になることを心得ているのか食べ残すことは殆どなかった。
 肌寒い日曜日だった。父が「種付けに行くから」と亮三を誘った。
メイ子は父が嫌いで前足を踏ん張って歩こうとはしなかったから息子の手助けが必要だった。亮三は「種付け」の意味も分からずに、メイ子の首輪に手をかけて隣村の農家まで父に付いていった。前もって知らされていたようで、庭先の杭に牡山羊が繋がれていた。
メイ子はふて腐れ気味の表情を浮かべていた。一方の牡山羊は興奮して、短いたてがみを逆立てた。手慣れたもので彼はメイ子の後ろから跨って、あっさりと目的を達してしまった。
父は気まずそうに後ろを向いていた。亮三は大動物の性交に立ち会うのは初めてだったから牡山羊の長く桃色に伸びたそれを瞬きもせず激奮して見守った。それは祭りの出店で売っている、竹の輪を幾つも繋ぎ合せた玩具で、横に振るとグニャグニャS字に動く赤い蛇にそっくりだった。

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