小説

『ジョバンニの弟』和織(『銀河鉄道の夜』)

「ありがとうコネリ。今日もだけれど、今まで何度も手伝ってくれていたのに、僕ちゃんとお礼を言っていなかった。嫌かもしれないけど、僕学校に来たいから、またこうして手伝ってくれないかな?」
 そう言ってカムパネルラは瞼をあげました。それから上手くできているのかどうかわかりませんでしたが、笑ってみました。そのときに、自分が笑顔のやり方さえ忘れかけてしまう程長い間、笑っていなかったことに気づかされました。不安なまま、しばらくそうしていました。コネリはというと、逃げるでもなく、何か言うでもなく、同じ場所でじっとしていました。すると突然、コネリの手から、熱がサッと引いていったので、カムパネルラは驚きました。しばしの沈黙のあと、コネリが自分へ寄って来るのを感じました。
「まぁ、あんたの目、初めて見たけどとても綺麗ね」
 コネリは大きな声で、感心したという風にそう言いました。するとみながカムパネルラの周りに集まって来て、「どれ、ああ、本当だ」、「もっとよく見せて」などと口にしました。握った手の気持ちが変わるのを感じたのも、そんな風にみなに自然と声をかけられたのも、学校に入って初めてのことでした。ああ、僕は変われるのか。ふと、カムパネルラはそう思いました。あの人が、自分と同じ名を持つと言ったあの青年が言った「立ち向かう心」とは、こういう気持ちのことを言うのだろうか、そう思って、もう一度笑ってみせました。
 今度ジョバンニ兄さんが帰ってきたら、学校の話をたくさんできるようになっていよう、カムパネルラはそう心に決めました。そして兄からは、自分と同じ名を持つと言ったあの親友と、銀河の話を聞かせてもらおうと思いました。

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