小説

『百年まって』眞中まり(『夢十夜』)

 少しためらって、伸ばした指先はやがて光へと辿りついた。それをゆっくりと突き抜けて、わたしはさらに手を伸ばす。動くことは叶わなかったはずなのに、いつのまにか立ち上がって、つま先立って背伸びをしている。それでも届かない、まだ届かない、もう少しで届く、あの空の色に。
 ゆっくりと表情を、彩りを変えていく空はもう広がりを見せない。たったひとつの星の破片、少し歪な輝きを手に、空はわたしの手が届くのを待ってくれている。ほのかなあたたかさを抱いた空の色合い、夜明けのやさしさに、わたしは確かにあの人の眼差しをみる。

 
 ああ、あの人はちゃんと、なってくれた。
 唯一が瞬く暁の、空に。

 
 口元のほころびを抑えきれなかった。百年、百年という時間の向こう側。その喜びに心が震えるから、今わたしはただ空の下、暁の星に向けてめいっぱいに咲く。

1 2