小説

『百年まって』眞中まり(『夢十夜』)

 ずっと昔から知っているきらめきがある。
 きっと、星を細かに砕いたらあんな光になるのだと思う。完璧な形ではなく少し歪で、だからこそ光を反射してきらきらと輝くのだ。立ち尽くすその場所がどんな暗がりでも、その光が目に留まれば励ましとなり導きとなる。ならばあの人を見つけだすための標として決して見間違えるはずがない。そう信じて天を仰ぐけれどそのきらめきは本当におぼろげで、今にも消えてしまいそうなくらいに弱々しいのだ。
 とても、とても長くて茫漠とした時間がわたしとあの人の間を隔てている。一人きりでいるうちに空は広がりを見せ、その光の標を見つけだすことはだんだんと難しくなっていた。時にはわたしの目に、この夜はただの平たい闇に見えることもあるのだ。それでもどこかにあるはずだと必死に目を凝らし、淡い光をなんとか見つけだした時には安心すると同時に恐ろしくて泣き出してしまいそうになる。
 水晶がやわく散りばめられたような水面にむきだしの足を浸して、闇空の向こうに思いを馳せる。ひどく身体が重いのだった。漂うものは沈黙ばかりだから、おそらくわたしは一人なのだろう。花びらが固く閉じたままの蕾のわたしには、咲き誇るまでの時間がまだまだ足りない。だからこの場所でただ静かに時を待つしかない。
 何かが許してくれるなら、届く気がした。そう、百年先にならまた視線を通わせることができるかもしれない、あの人に。
 百年。百年まっていてくださいと、あの人に頼んだ。百年まってくれたら必ず逢いにくるからと。わたしはこわかった。百年という時間を、あの人が待ち続けてくれるのかどうかがこわかった。だからこうして今星明かりを見つけるととても安心して、同時にまた恐怖にかられてしまう。あとどれほど待てば時は過ぎるのだろう。命を再び得るための百年、この道を選んでしまったらもう途中でやめることはできない。百年が過ぎれば再び光を浴びられるとして、なんと長いことか。動くことはできないし、あの人がいないのだからその時間は、もっと、もっと長い。だというのに耐え忍んだその先にあの人の姿がもしもなかったとしたら、わたしは。

 ふと、身体をわずかに動かせることに気づいた。

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