小説

『赤ずきんと海の狼』酒井華蓮(『赤ずきん』)

「私は黒ではないのか」
「黒だよ。でも黒が深過ぎて、青っぽい黒」
また分からないらしい。自分の前足を見ているようだけど、確かに自分の色なんて分かりにくいかもしれない。私も少し離れて青味が分かったし。
まじまじと見ていたけれどやがて諦めたのか、黄色い目をくるりと私へ向けた。
「お前が気にする、お母さんが悲しむ、になるのではないか」
「あぁ、それなら大丈夫」
お母さんも、そんなに私を好きでないし。
でも狼さんには分からないだろうから黙っておく。
「…青は真昼の空だな?」
「え?うん。今もほら、素敵な青空」
「黒は夜の色」
「そうだよ、どうしたの?」
じゃあ狼さんの黄色い瞳はお月様。二つあるから、片方は星ってことにして。
「お前が言うことはわからぬ。昼と夜は共に在ることは無い」
「うーん。でもその昼の空ってより、海の青って色だよ、狼さんのは。ほら、ちょうどここは青いお花がいっぱいで、海みたいでしょ?狼さんの体、海の中にいたら色が移っちゃったみたい」
「海の青」
そっか。狼さん、海は知らないよね。私だって見たことないもの。
何か良い例えないかな、頑張って頭を回してみる。
あ、そうだ
「私が好きな青なの」
青空も素敵だけど私が好きなのは深い青だから。
見たことがないけれど、きっと私が好きな青だと思う。
「そうか」
「うん。……じゃあ、今日はもう行くね。私、しばらく来ないかも」
ぴくりと狼さんの耳が動いた。

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