小説

『怪鳥ヲ射ル事』化野生姜(『太平記/広有射怪鳥事』)

そのときだった。
一羽の奇妙な鳥が私と的とのあいだに入るように舞い降りてきた。
その鳥は朱色と黄色の混じった妙な羽の色をしていて、五本もの鋭く尖ったかぎ爪を持っていた。鷲くらいの大きさをもつその鳥は、正面を向くと大きく口を開けた。

しかし、その鳥が何か声を出す前に私の矢はすでに私の手元からはなれていた。
矢は、鳥の眉間を貫いた。
そのとき、私は鳥がつぶやくのを聞いた。

『いつまで』…と。

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後ろから、暑い日差しが照りつけている。
私は顔から汗をしたたらせながら弓道場の引き戸を開けた。

夏休みにも、まじめにこの場所に通うのはインターハイの出場を決めてしまった私くらいのもので道場の中も更衣室にも人の気配はなかった。
私は道着に着替えると弓を持って長い射場を歩いた。
射場の向こうにはくらくらするような夏の日差しを浴びる矢道がある。
だが、こちらはひさしがついているためか、それほど暑さは感じない。

そうして一本目の矢を放った時、ふいに一羽の奇妙な鳥が私と的とのあいだに入るように舞い降りてきた。
その鳥は朱色と黄色の混じった妙な羽の色をしていて、五本もの鋭く尖ったかぎ爪を持っていた。そして、鷲くらいの大きさをもつその鳥は、正面を向くと大きく口を開けるとこうつぶやいた。

『いつまで』…と。

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