小説

『魔法使いとネズミの御者』Dice(ぺロー版『シンデレラ』)

「予約も承るし、必要なときに呼び出してもらえれば空車をすぐに手配して迎えにも行くよ!」
「自分の商才を過信していないかい?」
「社名はブラウンキャブにします」
 語っているうちに、すべて叶う気がしてくる。ブラウニーはどんどん饒舌になった。
「で、それが大成功して億万長者になって、豪邸を建てて若い嫁をもらって」
「待て待て、お前もう結婚しているはずだろう」
「最初の嫁ですか?その頃には年増になっていると思うんで、捨てます」
「急に人でなしになった!」
「で、新しい嫁に面倒看てもらって、最後は家でぽっくり」
「また、違う時代の闇に切り込んだね」
 魔法使いはまた腕組みをして、机の上からブラウニーに視線を移した。意外と笑顔だ。乱杭歯が口からのぞいている。
「ま、これだけ人間になってからのことを語れること自体は、高評価だよ」
 生計の立て方とか、と魔法使いは感心したようにうなずき、またなにか書いている。一気にブラウニーの気持ちは明るくなった。
「じゃあ、人間、合格?」
「いや、まだ最後の質問がある。これに満足のいく答えを出してくれれば合格だよ、ブラウニー」
 ブラウニーは気を引き締めるために、膝の上の両手を握りこぶしにした。
「わかりました」
「では最後の質問です」
 そう言うと、魔法使いは机に両肘をつき、顔の前で指を組んだ。
「なぜ、あなたはネズミとして生まれてきたのだと思いますか?」
「え?」
 魔法使いは射抜くようにブラウニーを見つめている。
「生の途中で人間に変わるのなら、最初から人間として生まれてきた方が簡単だったろう。なのになぜ、まずはネズミの姿で生まれてきたのか?自分ではなぜだと思うか、答えてごらん」
「なぜって言われても、僕が決めたわけじゃないし」
 ブラウニーは右手を頬に当て、しばらく床を見つめた。頬にも半ばくらいまでひげが生えているときに、このときやっと気がついた。

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