小説

『F・A・C・E』澤ノブワレ(『むじな』)

 男の前で立ち止まる。俺はただ何もせず、男が一気に俺と間合いを詰めるのを呆然と見ていた。そして、脇腹に差し込まれた鋭い痛みが、次は鳩尾のあたりに、それから胸に、あるいは下腹部に、あらゆるところに追加されていくのを、当然のことのように受け入れていた。男は一通り俺の体に穴を開けると、そのまま仰向けに倒れた俺に馬乗りになって、懐から一枚の写真を取り出した。見せつける。幸せそうな顔の、四人家族。あのフラッシュバックがまた蘇る。はっきりと、恐怖に見開いた目や、苦痛に歪んだ口や、一人一人の人間じみた断末魔まで。あれほどまで苦しめられた光景のはずなのに、俺は安堵の笑みをこぼしていた。
 男は写真をゆっくりとずらしていく。その長方形の端から、ゆっくりと男の顔が現れる。男は、その焼け爛れた、表情の無い顔で俺を見据えていた。その目も、鼻も、口も、俺は覚えていた。

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