小説

『パーティ』大前粟生(『灰かぶり姫』)

枝をゆさぶれ、はしばみよ
金と銀とを投げ落とせ

 わたしたちが生徒会長の寝室をノックしようとしたまさにその瞬間、雪の女王みたいな女が会場に現れた。だれもが踊りをやめ、トイレの個室はひとつ残らず開かれた。きらびやかな会場の装飾物も照明もなにもかもが、その人を際立たせるための装置として働いた。音楽は聞こえなくなり、その人が歩く様子はスローモーションに見えた。人びとは息を呑みながら左右に広がり、生徒会長の寝室に続く道はモーセに割られた海になった。その人はすごいドレスを着ていた。もちろん、埃とかフケとか灰なんていっさいない。代わりに羽がたくさんある、前衛的なドレスだ。まるで何千、何万羽の鳥が生きたまま縫い付けられて、うごめいているみたいだ。その人は長いランウェイの上にいるみたいに、艶めかしく歩いている。でも、写真が撮られたりはしない。すべての目は釘づけになり、まばたきのシャッターさえ下りることはない。その人は、シンデレラのガラスの靴も真っ青な黄金の靴を履いている。美しい足を考える部の部長と、新進気鋭の一年生エースがついに堪えきれなくなった。悪魔憑きのように、ゴキブリのように、地面を四つん這いですばやく這いまわって、熟練と革新的な手つきで彼女の左足の靴をひったくった。その人は片方の靴がなくなっても、宙に浮いているみたいな軽やかさで、美しい足を考える部なんて歯牙にもかけずに生徒会長の寝室を目指す。美しい足部のふたりは、さっそく黄金の靴を履いてみようとした。でもふたりには合わない。美しい足を考える部は考えるだけで、決して美しい足ではないからだ。部長がつま先を、エースがかかとを切り落としても無駄だった。

ごらん
大足の女の
靴は血まみれ
ほんとうの花嫁は家にいる

 コーラス部が、歌うというよりは叫んだ。コーラス部の喉から、これでもかというほどの唾が飛び、照明が飛沫を花火みたいに照らした。わたしたちもあとに続いて合唱した。

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