小説

『黍団子をもう一度』山北貴子(『桃太郎』)

 桃太郎は腰に付けた黍団子の重さが気になっていた。
以前、鬼ヶ島に向かう時はこんなに重かっただろうか?
いや、あの時は犬、猿、雉がやってきて私の黍団子を食べてしまった。
だから軽かったのだ。

鬼を退治した後の私は英雄だった。
鬼に苦しめられた村々の人は次々とおじいさんの家を訪れた。
退治したお礼の品と称し、様々な作物、魚介類、美しい反物が毎日のように届けられた。
また近隣の村だけでなく山を一つ越えた村からも、娘の婿にと連日のように人が訪れた。
そんな艶やかで騒がしい日々は、私をとても疲れさせた。
「もう一度黍団子を作ってください」
私がおばあさんにそう言ったのは、鬼ヶ島から帰ってふた月もたたない頃だった。
心が疲れた時、私は何故桃の中から自分が産まれたのか気になりだした。
一体私は何者なのか。
答えのない問だが、一つだけ望みはあった。
私が入っていた桃が流れていたあの川だ。
あの川を上っていけば答えがあるかもしれない。
いや、答えなど求めていない。
この騒がしい日常から、少しでも離れたいのだ。
そうして私は、再び黍団子を腰に旅に出た。
今度は立派な鎧も、刀も持たず。
「必ず戻ります」
鬼ヶ島にいった時と同じ言葉をおばあさんにかけ、私は旅立った。

3日…4日と川を上り続けると、段々と川は細くなり、やがて勾配も急になってきた。
平坦だった川沿いの道も、切り立った崖のようになる頃、家の屋根のようなものが目に飛び込んできた。
その家の周りには多くの木が茂っていた。

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