小説

『不毛な愛を求める子供』月崎奈々世(『ヘンゼルとグレーテル』)

「美緒ちゃん。自分では気づいてないようだけど、あなたは、そのロクデナシの母親を愛してるわ」
「は、何言って……」
「母親が男に走って、自分に構ってくれないことが寂しいんでしょう。自分を見てくれないからやりきれないんでしょう。母親に良く思われたいから、いつも我慢して生きてるんでしょう」
「違うっ」
 美緒ははっきりと言った。はっきりと言うほかなかった。母親には死んで欲しい位の感情を抱いているのだから。本当だ。嘘じゃない。本当だ、本当だ、本当の気持ちだ。
 女は、美緒が強く否定したことに苛つき、左手で首を絞めてきた。一気に頭に血がのぼる。美緒は女の左手に爪を立てたが、絞めつける力は強まる一方だった。
「ふふ、美緒ちゃんにとって、本当にいなくなって欲しい相手は誰なのかしらね? でも、そんなこと分からないまま死ぬのも悪くはないと思うわ。だからお願い、私の幸せの邪魔をしないで。隼人くんとふたりでいさせてよ」
「いや!!!」
 これ以上何も言わないで。美緒は我慢の限界に達し、女の腹に力一杯足を入れた。そして女の顔が歪み、ひるんだ隙にすぐ側にあった陶器の置物で頭を一撃した。女は大きな音を立てて、仰向けで倒れた。
 美緒は起き上がり、肩で大きく息をして、喉に手を押さえながら咳をした。そして四つん這いで隼人に駆け寄った。
「隼人!隼人!!」
 目を閉じている隼人の頬を何回か叩くと、彼は眉をしかめ、
「ん……、お姉ちゃん」
 と、か細い声で言い、美緒に抱きついた。小刻みに体が震えている。
「もう大丈夫。怖い人は、お姉ちゃんがやっつけたから」
 そう言って、美緒は隼人の頭をなでた。
「隼人が無事でよかっ……」
 ―――本当にそう思ってる?

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