小説

『Bros.』村越呂美(『偸盗』芥川龍之介)

 こんなところで、死ぬのか。そう思うと情けなくて、涙があふれてきた。でもいい。兄貴があの女にはめられて、死ぬくらいなら、これでいい。顎の骨が折れたのだろうか。口の中の血を吐き出したいのに、うまく口を開けられない。そう思った瞬間に、右頬をがつっと蹴り上げられた。靴の裏のスパイクが、祐二の顔をえぐった。バイクの音が聞こえたのは、祐二が気を失う寸前だった。
 男達を蹴散らしながら走り込んでいたバイクが、祐二の横に停まり、力強い手に体を引き起こされた。
「祐二、来い」
 抱きかかえるように、修一は祐二をバイクに乗せた。
 ──兄さん、昔もこんなふうに助けてくれたな。
 バイクは猛スピードで走り去り、そのまま兄弟は、二度と新宿に戻らなかった。

 群馬県の山中で、五十代と思われる男性と二十代の女性の死体が見つかったのは、それから一ヶ月後のことだった。身元を示すものを身に着けていなかったが、その残酷な殺され方から、暴力団関係の事件として、捜査が進められていると報じられた。ウィステリア・キャッスルのママ、藤島真理子が夫と娘の失踪届を出してから、半月過ぎた頃だ。

 安西あみが、男の子を産んだのは、九月の終わりだった。時々、差出人のない封筒で金が送られてくる。あみはそれが、修一と祐二からだと信じている。

 大阪や神戸の繁華街で、顔に傷のある兄弟が便利屋のようなことをしているという噂を聞いたことがある。どちらも、ひどく腕が良く、男前なのだが、残念なことに、それぞれ左頬と、右頬に大きな傷痕があるそうだ。

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