小説

『おとぎサポート』広都悠里(『一寸法師』)

 子供の頃はよかったな、配られた紙を手にしてため息をつく。
「何言ってんの、オレたちまだ子供じゃーん?」
 戸倉がへらへら笑う。
「おまえ、もう出したの?これ」
「あ、進路希望調査。なんだよ堀川、まだ出していないのかよ」
「だってさー」
 戸倉に奪われた、名前しか記入していない進路希望調査書を奪い返す。
「進路希望調査、だって。なんかやだな。小さい頃は将来の夢は何ですか、だったのに」
「夢見る時代は終わったのよん。受験戦争突入です」
「だよな」
 まだ十代だぜ?夢を見ちゃいけないのかよ、と叫ぶ勇気もなく進路希望調査書の紙を折り畳む。提出は来週の金曜日までだ。
「あーあ、へこむなあ」
「まあ適当にやるしかないっしょ」
「適当に、ねえ」
 適当にやって夢がかなうほど世の中は甘くない。
「なんだよ、深刻になるなんてらしくないな」
「だよな」
「だよ」
「じゃあ、一発ギャグやりまーす。タレントOのモノマネ」
「よ、待ってました」
 両手をメガホンみたいにして戸倉が叫ぶとそこらにいた男女がわらわらと集まってくる。
「翼くん、何かやるの?」
「やってやって!」
 期待に満ちた笑顔と拍手。でもわかっている。みんなぴりぴりした毎日の中でちょっとした笑いを求めているだけなんだってこと。

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