小説

『モモノミクス』梅屋啓(『桃太郎』『西遊記』)

 天帝は天子に人差し指を突き付けながら自身満々で言った。天子はその指を払いのけ、天帝に迫る。
「どうでもいいですよ。でもあの時近くに壁がなくて。仕方ないから仙桃の大樹で壁ドンさせて。どうなりました?」
「……うーん」
 天帝は再び天子から目をそらす。
「確か証拠写真がこの……」
 天子は書類の束に手を伸ばして天帝の目の前で一枚ずつ書類を捲り始めた。
「落ちたね!大量の仙桃が!下界に落ちていったよね!」
「そうです。あの仙桃からは翌年の新人天子たちが生まれてくるはずだったんですけどね!下界に落ちて、その後どうなったかはご存じですよね!」
「川から海に流れ出て、沖合の孤島に流れ着いたね」
「その後は」
 天子がデスクを叩きながら話しの続きを促す。
「しばらくして桃から天子たちが生まれたね」
「その通りです。びっくりですよね。生まれてきたら絶海の孤島で。まともに教育してくれる先輩天子もいなくて。そりゃグレますよね」
「今じゃ鬼ヶ島とか呼ばれてるよね」
「本当ですよ。本土を襲って悪さするもんだから。おかげでこの数字でしょう」
 天子は再び右肩下がりの折れ線グラフを指示しながら天帝を追いつめていく。
「すみません……」
「本当に悪いと思ってんですか?どうすんですか、これ」
 天帝はバツが悪そうに口を尖らせて、少し考えてから小さな声で言った。
「鬼退治……しなきゃいけないと思ってる」
「誰がやるんですか」
「君のとこで、ちょっと手の空いてるやついない?」
「いません」
「本当にいないの?」
「いないでしょ。ただでさえ、天子になるはずの人材が下界で鬼やってんですから。人手不足なのわかるでしょ」

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