小説

『エンドウ豆の上に寝たお姫様』長月竜胆(『エンドウ豆の上に寝たお姫様』)

「まあ、行動力があり、活発なお姫様というのも悪くはないかもしれないわね」
 当然それで納得するわけもない王子は苦い顔で言った。
「いかに行動力があろうと、それを裏付ける知性や品性に欠けるのでは、暴走のようになってしまいます」
 そして、最後に出会った三女にも、王子は同様の質問をした。三女は微笑んで答える。
「ええ、よく眠れました。泊めていただき感謝しています」
 王妃は三女の慎ましい態度を褒める。
「謙虚でよくできた子じゃないかしら。とても好感が持てるわね」
 王子は少し考え、悩みながら言った。
「しかし、そもそもあの豆が全く気にならないというのは、お姫様としての育ちが怪しいということではないですか」
 結局、三人全員に対して文句を付けた王子。正直なところ自分でも何を期待していたのか、分からなくなっていた。人間臭さとでもいうのか、思いのほか現実的な現実に、理想となる“真のお姫様”の姿がすっかりぼやけてしまい、自分が何を求めているのかを見失っていた。
 一人になって、窓から空を見上げる王子。王子の心情とは対照的に、嵐は去り、澄み渡る青空が広がっている。
「こんな様では、何より私自身が真の王子に程遠いのかも知れないな……」
 王子はぽつりと呟く。ふと見下ろすと、中庭の一角に三女の姿が見えた。雨風は止んだとはいえ、嵐で荒れた中庭には他に誰もいない。王子が不思議に思いながら眺めていると、三女はふいに顔を伏せて静かにあくびをした。
「よく眠れたと言っていたのに……」
 王子はその時初めて、三女が気を遣って嘘をついたのだと気付いた。一切そんな素振りは見せず、感謝の言葉と共に、静かに微笑んだ三女の姿を思い出す王子。三女の心根の美しさを知り、王子は自分の浅ましさが恥ずかしくなった。
 王子は真っ直ぐ三女のもとへ向かう。そして、恭しく一礼すると、ぬかるんだ地べたに片膝をつき、愛を告白した。

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