小説

『エンドウ豆の上に寝たお姫様』長月竜胆(『エンドウ豆の上に寝たお姫様』)

ツギクルバナー

 とある国に、一人の若き王子がいた。王子は理想の高い性格で、何事にも妥協しない。それ故に厳しいところもあるが、その真っ直ぐで誇り高い生き様に、国民からの信頼と期待も厚かった。
 立派な王となるために、日々努力を怠らない王子。しかし、自身の努力ではどうにもできない問題に直面していた。それは、未来の王妃となる人物、すなわち自身の伴侶となる女性を見つけられずにいることである。当然のことながら、パートナーに対する理想も高い王子。“真のお姫様”と呼べる存在を探し求め、運命の出会いを夢見ていた。ところが、どんなお姫様も何かしらの欠点を抱えており、王子のお眼鏡にかなう人物はなかなか見つからない。
 そんなある時、王子の住む城に某国の王女を名乗る三姉妹が訪れる。その頃、王子の国の周辺地域には大きな嵐が迫っており、旅の途中であった王女たちは非難のためにこの国へ立ち寄ったのである。王子たちは三人の王女を快く受け入れ、城内に招き入れた。
 その夜、王子の母である現王妃のアイデアで、三人の王女が使用するベッドにエンドウ豆が一粒ずつ仕込まれた。ベッドに横になると、エンドウ豆の膨らみが僅かに当たる。それぞれの王女がいかに対応するかを見ることで、“真のお姫様”であるかどうかを見分けようという考えだった。
 翌朝、王子がまず出会ったのは三姉妹の長女。王子は軽く挨拶をした後、よく眠ることができたかを尋ねた。長女はやや曇った顔で答える。
「実は、慣れない環境ということもあってか、あまりよく眠れませんでした。何かがベッドの下に入ってしまったのか、ゴツゴツしていましたし……」
 そんなやりとりの後、一旦長女と別れると、王妃は喜んで王子に言う。
「たった一粒の豆ですら気になるほどですから、お姫様として大事に育てられてきたに違いないわ」
 しかし、王子は浮かない顔で応えた。
「たかが豆の一粒で眠れずに文句を言うのは、わがままで気難しいというふうにもとれます」
 次に、王子が出会ったのは次女。長女の時と同様に、王子は次女によく眠れたかを尋ねた。次女は元気に答える。
「ええ、よく眠れました。初めはベッドがでこぼこで気になったんですけど、置物で少し叩いたら平らになったので、それからはぐっすりです」
 それを聞いて唖然とする王子。王妃は苦笑いしながら言った。

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