小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

 2次会はその後スムーズに進行し、最後のプログラム、新郎新婦によるお見送り。キヨトの故郷・岡山の名物、吉備団子がプチ・ギフトとして出席者に1箱ずつ配られる。
 新婚の二人の前に、ミツキたち3人。
 作り笑顔のまま、「今日はありがとう」と棒読みのキヨト。流れ作業で吉備団子を手渡す。よく4人でそれを食べていた大学時代の記憶が、一人一人の脳裏に浮かぶ。
 彼女たちの去り際に、愛理から「キヨトが大変お世話になりました」という、感情の籠もっていない声。新郎の表情が強張る。

    ◆

 キヨトから受け取っていた、余興のお礼、金一封。それが今、ミツキの手に握られている。
 エレベーターで1階に降りた3人。
「あー、ムシャクシャする」アンズが声を荒げる。「どうする、これから。飲む? 飲むよね、飲むしかないでしょ、これさぁー」
「飲む」ミツキは即答。
「私もー、私もー」と賛同するツバサ。
 豪華な封筒を掲げるミツキ。「これ、使っちゃおうよ」
「いいね~。じゃあ、いつものお店、行こう」
 横に並んで歩くミツキとアンズに、
「ちょっと先、行っててー。さっきの(2次会の)お店に忘れ物、あるから」来た道を引き返し、エレベーターに乗り込む。

 2次会の場所は4階だったが、真下のフロア・3階で降りる。そこで待っていたのは、タキシード姿のキヨト。
 微笑むツバサ。「2枚目のディスクが出た時、ドキドキした?」
「かーなーり」彼は天を仰ぐ。
「あんな暴露ムービー、上映されること分かっていたのに、どうしてミツキたちに動画作成をやめさせなかったの? 方法はあったと思うけど」
 ツバサの疑問に、出てきた答えは、
「上映できなくて悔しがる二人の顔、見たかったから」
「――」
「嘘だよ、嘘。ムービー流されるのは困るけど、出来上がった作品、別の日に、個人的に見たかったんだ。竹中さんや新田さん、みんな元気にしているか見たくてさ」
「何それ」そう言いながら、本物のディスクと修正前ディスクを彼に手渡す。

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