小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

 彼女たち一人一人と直接会い、アンズが改めて事情を説明、ミツキがハンディー・カメラで撮影する。彼女たちの発言内容は当然事実だが、これをストレートにムービーにしてしまうと「単なる嫌がらせ動画」になる。これを避ける為、リハーサルを1回行い、普通に喋ってもらう。そして、ちょっとした言葉や表現をアンズがアレンジし、ぼかし、遠回しにして、本番で言い直してもらう。
 9人全員、演技経験は無いのに、見事本音を言いつつ、演じきった。立派な女優である。

 ツバサも仕事が落ち着き、式の1週間前3月21日からコメント撮りに参加する。小さなミスから大きな失敗まで、様々なドジを巻き起こす彼女は、ミツキとアンズを困らせた。それでも、「ツバサは優しい馬鹿だから、仕方無い」と二人は自分に言い聞かせ、幾度と無く溜め息をつく。9人それぞれとのコメント撮影が全て終了したのは、式3日前の25日。
 前日の27日にミツキは仕事を1日丸ごと休み、ムービー編集に没頭する。最低限必要な情報を盛り込んだ動画が、夕方までに完成。仕事帰りのアンズとツバサを自宅に招き、現状の出来栄えを見せた。

 細かい要望や意見をアンズは、好き勝手ミツキに伝え、帰宅する。
 ツバサは現状に満足した感想のみで、参考にならない。そんな彼女でも、
「朝まで手伝うよ」
 と言い、翌朝7時までひたすらミツキと作業を続けてくれた。

 2次会当日の、3月28日、土曜日。
 睡眠と着替えのために、ツバサが一旦帰宅した。
 4時間だけミツキは仮眠を取り、シャワーを浴び、バスルームから出て時計を見れば、時刻は午後3時半過ぎ。再びムービー編集の微調整をしていたら、フォーマル・ワンピース姿のツバサが戻ってきた。流石にそろそろ出掛ける準備を始めないと、2次会に間に合わない。
 携帯電話をいじっているツバサを放置して、大急ぎで身支度。家を出る前に、姿見の鏡で自分の服装と表情を確認する。
 ミツキが、ぽつりと「あの動画、キヨトが見たら、どんな顔するんだろう」と独り言。
 ツバサは、携帯電話の操作に夢中。

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