小説

『よひらの夢』葉野亜依(『紫陽花に纏わる言い伝え』)

 何か意味があるのだろうか。いや、なければこんなことはしないか。
「目が覚めたら、ばあちゃんに訊いてみるかな……何か知っているかもしれないし。亀の甲より年の功って言うし」
 うんうん、と一人頷いたその時、ぐらりと周りの景色が歪んだ。
 あ、もう直ぐ目が覚める。
 今までの経験からそう悟った時、草太の意識が遠退いた。

   *

 目を開けると、天井が見えた。その木目を暫くぼんやりと眺めた後、草太はゆっくりと起き上がって、ぐっと一つ背伸びをした。
「それじゃあ、訊きにいくとしますか」
 寝巻から服を着替えて部屋の外に出ると、とんとんとん、とリズム良い包丁の音が聞こえてきた。祖母が朝食を作っているのだろう。漂ってくる香しい匂いを嗅いで、お腹がぐう、と鳴った。でも、仕方が無いと思う。自分は育ち盛りであるし、何より夢を見た時は、何時もより一層お腹が空くのだ。
「はよー」
「あら、おはよう」
 お勝手に着くと、ちょうど朝食が出来上がったところのようだ。
真っ白なご飯。美味しそうに焼き上がった鮭の塩焼き。ふっくらとした厚焼き卵。そして、夏らしいオクラのたたき。
 これぞ正しく、日本の朝食である。何時も朝食はパンを食べている草太にとって、それはある種の非日常ではあるが、和食は別に嫌いではなく寧ろ好きだった。
 席に着いた後、いただきます、と二人して手を合わせる。
 魚の身を頬張りながら、草太はさっそく話を切り出した。
「ねえ、あの立て札って、昔からあるの?」
「立て札?」
「ほら、門の所の紫陽花の近くにあったやつ。今まであんなの見たことなかったから」
「ああ、あれね。まあ、あれは期間限定のものだからね」
「期間限定?」
「あれ、昨日話してなかったっけ?」
「話してないよ」
「そうだったかね」
 お茶を啜りながら、祖母がのんびりと答える。

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