小説

『あの子は月にかえらない』池上幸希(『竹取物語』)

「ありがと…」
 日夜子が鼻声でつぶやくと同時に、僕らの間はそっけないバスのドアで閉ざされた。

 榊 日夜子の名残月 

 天根専務は、約束通り東京にあたしのママのお墓をつくってくれた。それが、ついていこうと思った一番の理由だ。専務と千石のおばさんは、結局別れたらしい。今となってはどうでもいいことだけど。駒場の寮に入ったあたしは、本格的にモデルの仕事をやるようになった。事務所にお芝居の仕事をやれと言われても、意地でもやらないと決めている。
大好きなあの子たちに、あたしが仕組んだことを気づかれてしまったら悲しいから。
 

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